クッシング症候群は副腎皮質ホルモンの過剰症で、下垂体からのACTH分泌過剰に反応しておきるものと、それによらず副腎皮質の腫瘍などによる自立的分泌過剰によるものがある。加えて薬剤性の過剰症も高頻度に発生している。クッシング症候群は骨格筋でステロイドミオパチーをおこす。その病態は一様ではなく、蛋白の異化作用をおこし、インスリン利用を低下させてエネルギー代謝を障害など多様である。蛋白異化作用は、具体的にはアミノ酸の骨格筋への動員を低下させ、同時にユビキチンプロテオゾーム系とライソゾーム系の活性化により、筋蛋白の異化を促進する。この時に筋蛋白合成の初期に重要な酵素であるmTOR を抑制し、さらに局所の筋成長因子の一つであるinsulin-like growth factor 1(IGF-1)を抑制する。またコルチゾルには筋の再生と分化を抑制する因子である myostatin の生成を増強する作用がある(Schakman,2008)。
筋病理的には type 2 fiber atrophy が主要な所見である(Fig. 56)。ステロイドミオパチーでおきる極度のtype 2 fiber atrophy では、一見萎縮線維と非萎縮線維が2群にわかれ、しかも萎縮したtype 2 fiber が角化して見えることがあるため、神経原性筋萎縮に似た所見を呈することがある。
Fig.56
ステロイドミオパチー myosin ATPase activity (pH 10.2)
Type 2 fibre (黒色) が全般に萎縮している。