この病気では、眼瞼下垂を主とする外眼筋と咽頭筋、球筋の筋力低下に加えて、四肢近位筋に症状が見られる。球症状は嗄声や舌萎縮、嚥下困難として現れやすい。中高年になってから発症し、緩徐進行性で、高齢になって歩行困難になる患者が多い。大多数の患者で初発症状となる眼瞼下垂のため、それを補正するために首を伸展する姿勢がよく見られる。常染色体性優性遺伝形式をとるため、患者さんのご先祖の写真を見せていただくと眼瞼下垂の方を見いだすことがある。
遺伝子異常はカナダ・ケベック州のフランス系住民で見いだされた染色体14q.11.1のpolyadenylate binding protein nuclear 1(PABPN1) 遺伝子にあるGCG repeat の伸張である。
筋病理学的には比較的軽度のミオパチーで、小角化線維のように一見みえる萎縮線維にしばしば縁取り空胞がみとめられる (Fig20a)。一部の核は大きく中央に染色の薄い部位を有し、電子顕微鏡ではこの部分に横径10 nmとやや細い線維性封入体がみられることがある。この封入体はPABPN1を含んでおり、この線維は複雑な網目状の配列を示す(Tome 1989)(Fig.20b,c)。
Fig.20
眼咽頭型筋ジストロフィーは優勢遺伝形式をとり、poly A binding protein nuclear 1(PABPN1) の遺伝子異常によりおきる疾患である。筋病理では縁取り空胞(矢印)をもつ萎縮線維が散見され、その核の一部にはPABPN1の増加が見られ(b)、電子顕微鏡で10nmの poly A binding protein を含む線維性封入体が観察される(C).
この病気は本来なら先天性ミオパチーの項で述べるべきだが、OPMDと病態の類似性があり、比較が重要なのでここで記述する。
里吉と木下は常染色体性優性遺伝を示し、緩徐進行性の眼瞼下垂、外眼筋麻痺および顔面、咀嚼筋、咽頭筋に加えて四肢遠位筋の萎縮をともなう家系を報告し、OPDMの名称を提唱した (Satoyoshi 1977)。その後、随伴症状や遺伝形式などの点で若干異なる点はあるものの同様の疾患が中国、トルコ、オランド、イタリア、米国などから報告された。筋病理についてはOPMDと類似点があるが、核内封入体の形状は異なり、またOPMD の遺伝子異常は見いだされないことより、両者は異なる病態と考えられた。
OPDM の関連遺伝子として2019 年にLRP12遺伝子の非翻訳領域にCGC repeat の伸張が発見され (Ishiura 2019)、続いて GIPC1 遺伝子の非翻訳領域で GGC repeat の伸張が発見された (Deng 2020)。なお、非翻訳領域の CGG repeat の伸張はこの他に fragile X tremor/ataxia syndrome (Hagerman 2001)、 神経核内封入体病 (Ishiura 2020;Sone 2016) 、および白質脳症を伴う眼咽頭型ミオパチー (Ishiura 2020) でも発見されている。