封入体筋炎は中高年におきる炎症性筋症で、典型例では前腕筋、とくに指屈筋と、大腿四頭筋などの大腿前面の筋が障害されやすい。緩徐だが慢性進行性で、免疫療法の効果がない例が多い。
筋病理学的には筋線維の変性・壊死と再生が見られるが、同時に一部の筋線維に縁取り空胞が観察される (Fig.50)。
Fig.50
封入体筋炎の筋生検像では、筋線維横径の異常な大小不同と内在核の増加などのミオパチーの変化に加え
て、大小の縁取り空胞(矢印)と筋束内の筋線維を取り囲むような単核細胞の浸潤が観察される。
細胞浸潤は筋束内に見られやすく、しばしば非壊死線維に密着している。免疫組織学的には浸潤細胞にはCD8+細胞、マクロファージ、CD4+細胞が観察され、筋細胞表面にMHC class I 抗原のaberrant expression が広くみとめられる(Fig.51)。
Fig.51
縁取り空胞がある線維では p62, ubiquitin,TDP43,リン酸化 TDP43 など多数のタンパクの異常な蓄積がみられる。
縁取り空胞を擁する線維ではしばしばTDP-43、p62、アミロイド陽性物質、ユビキチン陽性物質、そのほか多くの異常蛋白が検出できる。封入体は電子顕微鏡では横径約20 nm の管状または線維状の構造で、主に変性産物を中に含む空胞の近傍や一部の核内に見られる(Fig.52)。
Fig.52
縁取り空胞はmyelin figure とよばれる脂質を含む筋変性産物といわれる構造をなかにようする空胞で、その近傍には直径約20nmの線維性封入体が多くの場合存在する。
我々は封入体筋炎で比較的早期から筋核において核膜の中間層である fibrous lamina の消失部分が広がることを報告した(Matsubara, 2016c)。この変化が核内と筋形質の間の物質輸送の障害につながる可能性がある。