遺伝性ミオパチー

先天代謝異常によるミオパチー

1.糖代謝異常(糖原病)

解糖系酵素異常は、細胞のエネルギー供給を破綻させ、代謝を阻害された物質の蓄積による細胞障害を引き起こす。糖原病の多くでミオパチーが発生することが報告されているが、頻度が高いものは限られており、以下代表的な疾患について述べる。

(1)Pompe 病(糖原病II 型)

リソゾ-ム酵素である acidαglucosidase (GAA, 別称acid maltase) はグリコーゲンを分解してグルコースの産生に関与する。この酵素の欠損による疾患であるPompe病は常染色体性劣性遺伝を示し、臨床症状は重症の乳児型から、小児型、比較的軽症の成人型まで多様である。骨格筋、心筋、肝、神経細胞などにグリコーゲンが異常に蓄積するが、それ自体が細胞を破壊するのではなく、リソゾームの機能異常による障害が主と考えられている。乳児型の重症例はフロッピー・インファントで、早期から呼吸不全の状態で、心不全を伴う。遅発型の小児型と成人型では筋症状が主体で呼吸不全を伴うことがあるが、心不全は比較的少ない。血清CK活性は軽度から中等度増加している。遅発型は肢帯型などの筋ジストロフィーとの鑑別が重要である。近年酵素補充療法が可能となった。

筋病理では空胞を伴うミオパチーの所見が見られ、PAS反応で強反応を示す線維が多数あり、特に空胞内に強い反応を示すものがある。しかし、空胞では切片処理の段階で内容が脱落し反応陽性物質が見られぬものが多く、特にパラフィン包埋切片では空胞の内容はほぼ空虚である。 プラスチック包埋された標本では内容にグリコーゲンが残るものが多い。酸フォスファターゼ活性像では陽性を示す局面を示す線維が多数見られる。電顕では筋形質内に膜で限界されないものとされたものの両方の状態でグリコーゲン顆粒の集積が見られる。

筋症状を主症状とする糖原病にはPompe 病以外に、グリコーゲン脱分枝酵素 (debrancher enzyme)の欠損による糖原病III型とグリコ-ゲン分枝鎖酵素 (branching enzyme)欠損による糖原病IV型)がある。いずれも肝腫大を伴うことが多い病型だが、それらの頻度はまれである。

(2)McArdle 病(糖原病V型)

グリコーゲンを分解してグルコース1リン酸を生成し、解糖系をすすめる律速酵素のひとつである筋フォスフォリラーゼの欠損により起きるのがMcArdle 病である。同酵素をコードするPYGM 遺伝子の変異によるもので、常染色体性劣性遺伝をとる。臨床症状は易疲労性、運動中の筋痛、筋痙攣(クランプ)、一過性の脱力などで、いずれも休息で回復する。運動中に筋痛が生じても、運動を継続するか、短時間休憩するだけで、筋痛などが改善し運動を続けられる現象(second wind)があれば診断に役立つ。診察では筋力低下は目立たない。運動後に横紋筋融解をおこし赤褐色のミオグロビン尿を経験した病歴があることがある。筋病理学的には筋線維にグリコーゲンが異常に蓄積はするが筋線維の破壊像は乏しい。組織化学的に筋フォスフォリラーゼの活性低下が確認できれば診断できる。

(3)垂井病(糖原病VI型)

解糖系でフルクトース6リン酸をATP依存性にリン酸化し、フルクトース1,6リン酸を合成する酵素が phosphofructokinase(PFK)である。PFK には遺伝子座の異なる3つのアイソザイムがあり、筋PFKは心筋、赤血球にも存在する。この酵素の欠損によって起きる垂井病の症状には McArdle 病と共通点が多いが、溶血性貧血を合併しやすいこと、しばしば高尿酸血症を合併すること、second wind が見られないことが、差異としてあげられている。また筋力低下が恒常化する例も報告されている(Malfatti, 2012)。筋病理では軽度のミオパチー変化にグリコーゲンの異常な沈着と空胞形成がみられ、polyglucosan body の出現する例もある (Malfatti, 2012)。組織化学的にPFK活性が失われていることを確認する。

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