非遺伝性ミオパチー

感染性炎症性ミオパチー

世界的に人々の移動が頻繁となり、従来経験しなかった感染症と遭遇する可能性が高まっている。また食物の嗜好の幅が拡大し、獣肉や生に近い肉の摂取が行われる機会が増えている。これらの傾向は、従来はまれな感染症の可能性を考えて診療する必要性を高めている。

1.寄生虫性筋炎

骨格筋に感染しうる寄生虫の分類上の位置づけを以下に示す。

原虫類(protozoa)
トキソプラズマ
マラリア
条虫類(cestoda)
有鉤条虫(taenia solium)とそれによる嚢尾虫症(cysticercosis)
無鉤条虫(taenia saginata)
裂頭条虫(Diphyllobothrium)による孤虫症(sparganosis)
線虫類(nematode)
旋毛虫(trichinella)
鈎虫(hookworm, ancylostomiasis)

(1)トキソプラズマ

未調理の食肉、野生動物・家禽の糞便や体液は経口感染の原因となるが、胎児への経胎盤感染もある。骨格筋の感染が起きると、急性または亜急性の多発筋炎の症状をとるのが普通で、通常発熱やリンパ節腫脹を伴う。心筋など他臓器の症状にも注意が必要である。また皮疹を伴い皮膚筋炎との鑑別が必要な例もある。AIDS をはじめとする免疫不全状態では発生頻度が高まる。診断には病歴とともに血清学的検査が重要だが、MRIや CTで骨格筋内にシストが見られることがある。間質の浸潤細胞は主にCD4+細胞とマクロファージで、非感染性の多発筋炎とは異なっていた(Matsubara, 1990)。 

(2)マラリア

かつては本邦では三日熱マラリア原虫(plasmodium vivax)の国内感染例がみられたが、現在は海外で感染した例のみである。マラリア感染にともなう筋力低下や筋痛がまれではないと言われているが、正確な筋炎の発生頻度は不明である。重症度は原虫の種類によるとの説があり、熱帯熱マラリア原虫(plasmodium falciparum) の感染では横紋筋融解などの重症例が報告されている(Knochel,1993)。骨格筋障害の機序は不明だが、赤血球凝集の異常などによる虚血性の筋細胞壊死との説がある(Taylor,1990)。

(3)有鉤条虫と有鉤嚢虫症

有鉤条虫が臓器内で発育し嚢を形成して有鉤嚢虫となるのに約2ヶ月を要する。ヒトではブタ肉などの中にいる有鉤嚢虫の摂取による感染が多い。ヒトが誤って虫卵に汚染された食物や患者の手などから虫卵を摂取すると、卵は腸内で孵化し、成虫となり腸壁に侵入、血流とリンパ流を介して体内の諸臓器に移行しそこで発育し有鉤嚢虫となる。この間消化管症状、腹膜炎や貧血を起こす。有鉤嚢虫症は脳や骨格筋、心筋、眼などが多いが、全身臓器に発生する。てんかん、髄膜脳炎などを起こしうるが、全く無症状で過ごす例も知られている。糞便検査、末梢血の好酸球増多の有無などのほか、血清学的検査はきわめて重要で、また病変部の特定にはCT、MRI、超音波などの画像検査が有用である。筋には嚢胞が見られ、周囲には炎症反応と圧迫された筋線維が観察される。

(4)孤虫症

擬葉類(裂頭条虫科)は二つの中間宿主を必要とし、第一中間宿主はミジンコなどの水棲生物、第二中間宿主は魚類、両棲類、爬虫類である。ヒトがある裂頭条虫の幼虫(プロセルコイド)に感染したミジンコを摂取すると、幼虫は腸壁を穿通し、全身の皮下や筋に移行してさらに成長してプレロセルコイドとなる。第二中間宿主の肉を食した場合も感染する。経口以外に皮膚や傷口から感染する可能性も指摘されている。

(5)旋毛虫症

成虫は小腸に、幼虫は筋に寄生する線虫で、欧米では加熱不十分な豚肉などでの感染例があるが、本邦では北海道などでの熊肉による感染例が少数報告されている。感染の約2周後、幼虫が筋に移行する時期に発熱と筋痛、好酸球の増加などがみられる。筋内で嚢形成が起きる時期には、筋痛と筋力低下が炎症反応とともに見られ、筋炎の状態を呈する。外眼筋、頚部筋、顎筋などは障害されやすい筋である。

(7)鉤虫症

我が国ではズビニ鉤虫とアメリカ鉤虫が存在する。形態は似ているが、後者はやや小さく東部の形態に差異がある。いずれも幼虫の経皮と経口感染があるが、ズビニ鉤虫は経口、アメリカ鉤虫は経皮感染が多いといわれている。また両者とも感染後肺臓に移動し、再び小腸に達し、粘膜に咬着する。感染が続くと貧血が起きるが、ほとんど無症状で持続感染する。筋では幼虫が見られ、周囲に炎症と変性した筋線維が見られたと報告されている。

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