遺伝性ミオパチー

筋ジストロフィー

4.顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (facioscapulohumeral muscular dystrophy: FSHD)

(1)病態

顔面筋,肩甲骨周囲筋と上腕筋から始まる特徴的な分布の筋萎縮を示すこの病型は、Landouzy-Dejerine 型筋ジストロフィーとも呼ばれるが、最初の記載者はDuchenne (1868)であるといわれている。有病率は5/10万人とされ、筋ジストロフィー中の頻度は3番目である。常染色体性優性遺伝を示し、関連遺伝子は4q35、第4染色体長腕端付近にある。ここに存在するD4Z4 repeatの一部欠失による repeat の短縮 (Deak 2007)、または同遺伝子のメチル化に関与する他の部位にある数種類の遺伝子の異常が見いだされた。D4Z4は正常では10~110の反復配列を示すが、メチル化による抑制効果によってD4Z4は中にふくまれるDUX4 遺伝子は健常人では発現しない。ところがFSHDのうちで頻度が多い病型であるFSHD1ではD4Z4の繰り返し配列が短縮するために転写の抑制が緩みDUX4遺伝子が発現する。その遺伝子産物であるDUX4が筋細胞にアポトーシスなどの障害を引き起こすことがFSHDの病態と考えられている。ただしDUX4が作用するためには,D4Z4 のテロメア側にある正常の数種類の多型の中で4qA とよばれるアリルが存在する必要がある。

一方、18染色体SMCHD1(structural maintenance of chromosomes flexible hinge domain containing 1) 遺伝子におきる点変異が、他の遺伝子のメチル化を行うSMCHD1タンパクの減少を起こすと、第4染色体長腕末端にD4Z4繰り返し配列の短縮がなくても、メチル化が不完全となりDUX4が発現しFSHD1と同様の症状が起きる事が明らかになった。つまり、他の遺伝子をメチル化することにより抑制するレプレッサー遺伝子であるSMCHD1の変異がepigenetic にDUX4の発現抑制を減弱するため疾患が起きるもので、これが FSH2 型である (Sacconi 2015, Daxinger 2015) 。その後、同じくリプレッサー遺伝子であるDNMT3B とLRIF1 の変異もFSHD2の原因となることがあきらかになった (Socconi 2015, 2019; Johnson 2019; Hamanaka 2016, 2020)。FSHD2 はFSHD全体の5から10%を占と推定されている。さらに、 D4Z4 のrepeat 数が8から10の症例の中にはD4Z4 repeat の短縮とリプレッサ-遺伝子変異の両者を持ついわゆるFHSD1+2 が存在することも報告された (Sacconi 2019)。またFSHDでは小血管の形成に関与するタンパク合成が亢進していることも報告されている (Osborne 2007)。FSH1型と2型の間に症状などの臨床的特徴に差があるか否かはまだ明らかになっていない。

(2)症状と診断

多くの場合、患者が症状を自覚するのは、上肢の前方および側方挙上(それぞれ肩関節の屈曲および回外)が困難となった時点である。しかし、この時点で診察すると顔面筋の萎縮が明らかである。従って、真の発症時期は明らかではないことが多い。一般的には顔面の筋力低下の発症は幼児期で、上肢帯の症状を自覚するのが青年期であるが、中年になって、初めて発見される例も多い。おそらく、生涯無自覚の軽症例も存在すると推定される。 初発症状である顔面筋萎縮は、眼輪筋、口輪筋、頬骨筋に起こりやすく、側頭筋、咬筋、外眼筋などは初期には障害されにくい。上肢帯の筋のなかでも、僧帽筋、菱形筋、前鋸筋、広背筋など、肩甲骨を胸壁に固定する筋を中心に障害されやすい。肩甲骨は胸壁から遊離したようにその輪郭がめだつようになり、上側方に移動する。これに伴い頚部の外縁を形成する僧帽筋外縁が側方に広がり、首の下部が広がったように見える。病初期には比較的筋力の保たれる棘上筋と三角筋の働きで腕を水平までは側方挙上(外転)できるが、それより上に上げることは、肩甲骨が安定しないために、できない。さらに下肢の諸筋、特に前脛骨筋の筋力低下を示す例がある。また網膜の血管異常(Coats 症候群)や難聴の合併例が報告されている(Wulff,1982; Taylor,1982)。

(3)筋病理

ミオパチーにしばしば炎症が加わることが多い。ミオパチーはDMDなどに比較して変性の程度が軽い傾向があり、それに伴って再生線維もめだたない。具体的には、筋線維横径の大小不同あるが、その原因は萎縮線維とともに肥大線維があることにある。Type 1 線維萎縮の傾向を見せ、萎縮線維の一部は輪郭が角化しているおり、小群集を形成する様に見えることがある。中心核は存在するが他の筋ジストロフィーに比較して少ない。また軽度の筋線維内部構築の異常や間質の線維化が見られることがある。

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