早期から肘や脊柱の関節拘縮があり、上肢近位筋と下肢遠位筋を主とする筋萎縮と心伝導障害をきたす進行性ミオパチーは今世紀初頭から報告されていた。その多くがX染色体性劣性遺伝を示すものの、DMDとは異なる疾患として1966年にEmeryとDreifussによって記載された(Emery, 1966)。
このEmery-Dreifuss型筋ジストロフィー以外に類似の症候の常染色体優性遺伝をとる疾患が見いだされた今日、Emery-Dreifuss 症候群という病名を使用する場合もある。
X染色体型EDMDはエメリンの遺伝子(EMD)の変異と関連づけられている。エメリンは骨格筋、心筋および平滑筋の核膜のうち内膜に存在し、核骨格蛋白としての役割とともに蛋白合成にも関与するといわれている。また心筋では同期的な収縮に関与する介在板の接着結合部に存在する。常染色体性優性遺伝をとるAD-EDMDは同じく核膜の内側に存在する蛋白ラミンA/Cをコードする遺伝子 (LMNA)の変異と関連づけられている。LMNA の変異はAD-EDMD 以外に肢帯型筋ジストロフィー(関節拘縮を伴わない例)、家族性拡張型心筋症、家族性リポジストロフィー、遺伝性ニューロパチー(シャルコー・マリー・ツース病)、ハッチンソン・ギルフォード型早老症などで報告されている。
X-EDMDでは筋力低下が明らかになる以前から肘関節や足関節、および頚部脊椎の関節拘縮がしばしば見られる。頚部は屈曲が制限されるため、強く伸展するにともない、胸椎は前屈する例が多い。初期には上腕と下腿の筋萎縮がめだつが、やがて下肢近位筋の筋力も低下する。心伝導障害は時に心筋障害も伴い、しばしば突然死の原因となる。不整脈に対しては早期からペースメーカや除細動器などの装着が必要となる例が少なくない。
AD-EMMDはX-EDMDとほぼ同じ症候を示す例がある一方、関節拘縮を伴わず、肢帯型筋ジストロフィーの症状に心伝導障害を伴う病型を呈することがある(Kitaguchi, 2001: Matsubara, 2004)。
X-EDMD では抗 emerin 抗体を組織切片に反応させると、正常筋でみられる核膜に対する反応が見られない 。一方、AD-EDMD では lamin A/C に対する免疫組織化学的な反応は通常の方法で観察すればほぼ正常保たれている。このため後者の診断には遺伝子解析が必要である。