遺伝性ミオパチー

先天代謝異常によるミオパチー

3.自己貪食空胞性ミオパチー

真核細胞の維持のために細胞内蛋白の分解は不可欠な機能である。自己貪食はその重要な経路の一つで、最初の段階としてATG遺伝子と呼ばれる遺伝子群にコードされる蛋白により自己貪食空胞(autophagic vacuole)が形成される。自己貪食空胞が筋内に過剰に出現することを特徴とする先天性ミオパチーが自己貪食空胞性ミオパチー(autophagic vacuolar myopathy)である。自己貪食空胞は、二重膜構造で標的となる細胞質成分を包み込み、次の段階でリソソームと結合し、オートリソソームとなる。リソソーム膜には膜蛋白lysosome associated membrane protein (LAMP)1と2があり、LAMP2はリソソームが自己貪食空胞と融合するのに必要であることがわかっている。

(1)Danon 病

LAMP2をコードする LAMP2 遺伝子はX染色体長腕にあり、Danon病はその変異により起きる(Nishino, 2000)。X染色体性劣性遺伝を示し、男性にはミオパチー、肥大型心筋症、精神遅滞をおこす一方、女性保因者では心筋症を起こす。心筋症では不整脈が起こりやすく、突然死に至ることがある。末梢神経障害を伴う例も知られている。筋病理では筋形質に空胞がみられるが、その壁に筋表面蛋白であるジストロフィンなどが発現していることが特徴で、autophagic vacuoles with surface features(AVSF)と呼ばれている。

(2)XMEA(過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチー)

X染色体性劣性遺伝をとり、筋にはAVSFが見られるミオパチーを呈するものの心筋障害や精神遅滞などの中枢神経障害を伴わない疾患がXMEA で、女性保因者は無症状である。成人例も幼小児例も存在する(Kalimo, 1988)。原因遺伝子はX染色体長腕の Xq28 に位置する vacuolar membrane ATPase activity 21 (VMA21)である(Munteanu, 2008)。VMA21 は vacuolar ATPase の構成に関与する assembler chaperon の一つである。Vacuolar ATPaseは細胞のプロトンポンプ複合体で、その機能低下はリソソームのpHが上昇し、自己貪食能の低下をきたす。自己貪食能の低下はリサイクルされて得られる細胞内アミノ酸プールの低下を招くため、細胞の機能はますます低下して自己貪食空胞が蓄積すると考えられる。筋病理像は Danon 病と共通点が多いが、アセチルコリン・エステラーゼ活性が筋線維表面にみられ、また補体成分C5b-9からなる membrane attack complex(MAC) の沈着が一部の筋線維と空胞に見られることが報告されている(Charbrol, 2001)。

(3)IBMPFD(パジェット病と前頭側頭型認知症を伴う封入体筋症)

Inclusion body myopathy with Paget’s disease of bone and frontotemporal dementia はvalosin containing protein(VCP) をコードする遺伝子(VCP) の変異により発生し、常染色体性優性遺伝をとる (Watts, 2004)。VCPの変異はIBMPFD以外に家族性筋萎縮性側索硬化症、Charcot-Marie-Tooth 病、痙性対麻痺、パ-キンソン症候群などを起こすと報告されている。VCPはAAA-ATPase familyの一つで、蛋白の分解、細胞増殖その他の機能を持っている。臨床症状は主に中年に発症する近位筋に始まる筋力低下で、骨パジェット病を伴うことがある。年余にわたって緩徐に進行し、一部で前頭側頭型認知症を合併する。骨パジェット病は病的骨折などを来す疾患で、レントゲン上の変化や血清アルカリフォスファターゼの高値で検知できる。筋病理学的には縁取り空胞があり、時に ragged red fiber などのミトコンドリアの変化や、神経原性萎縮の要素を伴うミオパチーの所見で、電子顕微鏡でいろいろな形状の封入体を核内と細胞質にみとめる(Fig36)(Matsubara, 2016b)。

Fig.36
骨パジェット病と前頭側頭型認知症をともなう封入体筋症は valosin containing protein (VCP) 遺伝子の異常を伴う疾患である。筋病理として、ミオパチ-変化に加えて、縁取り空胞(矢頭)が見られる。また小角化線維があり、神経原性変化が伴うことが多い。疾患の表現型として運動ニュ-ロン疾患やパ-キンソン症候群も知られている。

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