ジストロフィン遺伝子上の変異がジストロフィンの欠損ではなく、 reading frame がある程度保持されて、アミノ酸構成やサイズの点で正常とは異なるものの、不完全なジストロフィンが筋膜に発現する状態がBMDの臨床像を呈する背景である。Western blot 解析では rod domain に対する抗体で検査した場合、正常の35から80%のジストロフィン量が検知される。分子量も異常であることが多い。
BMDの症状は多様で、DMDとの中間型といわれる"outlier"ではDMD類似の経過となる一方、もう一方の極には無症状の高CK血症を呈する例まで、幅広く存在する。しかし多くは1歳台の前半に起立歩行障害で発症し、緩徐に進行して、歩行困難となるのは、個人差が大きいものの、平均30歳台である。近位筋の筋力低下が主症状で、下腿筋の仮性肥大がしばしばみられる。常に問題となる肢帯型筋ジストロフィーとの鑑別には遺伝子検査とジストロフィン・テストが有用である。DMDに比較すれば低頻度ながら、心筋障害や知能障害がみられる。
重症度の差こそあれ、筋病理は基本的にDMDと共通の変化を示すが、変化の程度はDMDより穏やかなことが多い。ジストロフィンの免疫組織化学についてはDMDの項で概要を述べた。抗体の標的とするエピト-プと患者のジストロフィンの欠損部位によって様々なパターンがある。全体に染色性の低下する例が多いが、一見モザイク様の染色パターンを示す例もあるが全く染色を示さない線維は稀である (Fig.16)。
Fig.16
Becker 型筋ジストロフィーでは、正常より小さいサイズのジストロフィンが、正常と比べて少ない量生成されるため、ジストロフィンの染色性は抗体の認識部位により異なるが、一般に著しく低下する。
通常の遺伝子解析で異常が検知できなくても疑いが残る例では、異なるエピトープを標的とする複数の抗体でジストロフィン・テストを行う必要がある。