筋病理所見に名付けられた疾患が多い先天ミオパチーの中で、罹患部位にもとづく名称である遠位型ミオパチーのカテゴリーに属する疾患が少数あるが、それぞれ異なる筋病理の範疇に入る。
歴史的には北欧で早くから記載されて遠位型ミオパチーで、成人発症で、上肢遠位筋の萎縮が目立つ(Welander, 1951)。常染色体性優性遺伝を示す。関連遺伝子WDMは2p13にあるが、同じ領域にマップされる dysferlin 遺伝子よりセントロメア側にある別の遺伝子である RNA binding protein T-cell intracellular antigen-1(TIA1) に変異がみられる(Hackman, 2013)。 すべての患者が同じハプロタイプと点変異を持ち、創始者効果が見られることが報告されている。この蛋白は細胞のストレス耐性に関与するといわれている。筋病理学的にはrimmed vacuole をともなうミオパチーで、電顕でtubulofilamentous inclusion が観察されている。
遠位型筋萎縮とくに下腿後面、腓腹筋の萎縮が目立つ点を除くと、肢帯型筋ジストロフィー2B型との共通点が多い。検査成績,筋病理および遺伝学的にも共通の変化が見られる。
GNEミオパチー、またはDistal myopathy with rimmed vacuoles( DMRV ) では通常10歳台から30歳ごろまでに下肢遠位筋、とくに下腿前面の前脛骨筋などに萎縮と筋力低下が出現し、上肢遠位筋にも加わり、緩徐に進行する。常染色体性劣性遺伝を示し、遺伝子異常は中東のユダヤ人家系でみられる hereditary inclusion body myopathy(AR-hIBM ) で発見された UDP-N-acetylglucosamin2-epimerase /N-acetyl mannosamin kinase(GNE) と同一であることが確認された(Eisenberg, 2001; Kayashima, 2002)。この酵素は細胞のシアル酸合成に関与する。
筋病理学的にはrimmed vacuole をともなうミオパチーで、電顕で tubulofilamentous inclusion が観察される(Fig. 37)。
Fig.37
縁取り空胞(矢頭)を伴う遠位型ミオパチーの一例。
本症は北米で報告されていた遅発性常染色体性優性遺伝性遠位型ミオパチーで声帯と咽頭の機能不全を伴う特徴を有する(Feit, 1998)。その後ドイツ(Muller, 2014) と日本でも報告されている(Yamashita, 2015)。骨格筋の核マトリックスに発現している蛋白 matrin 3 をコードし 5q31に位置する遺伝子 MATR3 の変異が報告された(Senderek, 2009)。筋病理は rimmed vacuole を伴うミオパチーの変化で、電顕で tubular aggregate が観察された(Feit, 1998)。いわゆる multi- system proteinopathy の一つと考えられている。