骨格筋病理検査総論

筋の生検と検体処理についての留意点

生検部位の選択は検査の成否を左右するので慎重におこなう。筋力などの症状、筋電図、筋CTやMRIの所見を参考にして決めるが、筋力低下が軽度から中程度の部位が、病理的に特徴のある所見を示すことが多い。最近筋電図で針を刺入した部位をさける。筋腹を選択すれば筋内神経束や筋終板が観察できる可能性が増す。筋炎やサルコイドーシスが疑われるときはMRIで炎症や結節の部位を予測することができる。

成人は局所麻酔で、小児は全身麻酔下で生検を行う。筋ジストロフィー患者への全身麻酔に際しては、予め麻酔医にわずかながら悪性高熱の可能性があることを伝えておく。Needle biopsy よりも、 open biopsy の方が良好な検体が確実に採取できる。条件がよければ小さな切開で可能である。皮膚と筋膜の麻酔は十分行うが、採取する筋自体への局所麻酔は行わない。筋線維の走行に沿って縦に長い短冊状の筋を切除して、検体処理に際して方向が常に明確になるようにする。若干の出血はさけられないが、切除中の筋が血液に浸ることをさける。切除後移送するときは、硬く絞った生食ガーゼで軽く包んで乾燥を防ぎ、4℃で移送する。電子顕微鏡(電顕)のためには別にisometric clampを使用し、筋を軽い伸展位で固定した状態で切除、直ちに固定液に投入する。皮膚縫合は、ナイロン糸で真皮内縫合をするなど形成外科的縫合を実施して瘢痕を最小限にする。

検体は切除端を除いた部分を、(1)凍結用と(2)パラフィン包埋用にわけ、別に採取した(3)電顕用とあわせた3系統で処理する。凍結ブロックからクリオスタットで8μm厚の切片を薄切する。液体窒素で標本を凍結しクリオスタットで薄切する方法を添付の動画で供覧する。

我々は以下の染色をルーチンに実施している。Hematoxylin-eosin、Gomori trichrome 変法、NADH-tetrazolium reductase、PAS 反応、succinic dehydrogenase、non-specific esterase、choline esterase、acid phosphatase、 cytochrome C oxidase、myosin ATPase。Myosin ATPase 活性像はpH 10.4での routine 法に加えて、pH 4.3, 4.6, 10.4でpre-incubate した切片を反応させている。これに加えて筋炎と筋ジストロフィーに関する免疫組織化学的検査を実施している。

電顕はグルタール・アルデヒドとオスミウムの二重固定後エポン包埋する通常の方法であるが、包埋に際しては筋線維に対して正確な横断面と縦断面が観察できるように方向に配慮する。超薄切片に関しては、筋の場合、薄く切りすぎるとコントラストが得にくいので、gold を帯びたsilver の干渉色(約90nm) 厚の切片を作成している。支持膜は不必要である。型のごとく酢酸ウラニルとクエン酸鉛で二重染色した後、電顕で観察する。

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