筋疾患の診察と検査

診察

病院を訪れる患者さんには、たいてい、医師に先ず診察して欲しいところがあるのではないだろうか。腹痛に苦しむときはまずお腹を診てもらいたいのが人情である。そこで、順序はともかく、患者さんご本人の注意の焦点となっているところをまず診ることから診察を開始することは、有意義だと思われる。そこが医学的に一番重要な部位かどうかは別問題だが、とりあえず、自分がこれから患者さんのどういった問題に取り組もうとしているのかを大づかみすることができる。それから型どおりの全身の診察を行う。この診察は決して省略してはならない。特に筋疾患では甲状腺、肺、心臓、皮膚、リンパ節などについての診察が重要である。

1.神経学的所見

筋疾患の中でも特に神経原性筋萎縮症を診断するためには、神経所見を正確に把握することが不可欠である。神経所見は自己流を避け、指導者や教科書からオーソドックスな方法を学んで、十分修練して経験を積むことが大切と考える。異常な所見を呈する症例を診察することはむろん勉強になるが、もっとも勉強になるのは正常な人をできるだけ多く、丁寧に、できれば繰り返し診察することである。こうすることによって、自分のなかに正常人についての量的・質的に十分なデータベースを培うことができ、また同一人でも変動する範囲があることがわかる。

2.筋の診察

筋の診察に際して着目すべき3 つの要素がある。それは筋のボリューム、筋力そして随伴する筋の諸症状である。筋のボリュームを外見から診察するには慎重さが必要である。皮下脂肪の多くない人では視診で十分だが、肥満の方では筋力検査の時に触診して収縮時に固くふれる部分を確かめるのが確実である。背面を見ることも参考になる。必要なら陪席者をおいて、状況の許す限り全身を診て、全体のバランスから萎縮部位を判断する。ここでも多くの正常者の診察をして、正常のイメージをつかんでいることと、患者の生活、特に労働や運動の具体的な内容と量を聴取していることが判断の助けになる。

徒手筋力検査の詳細は略するが、常に教科書に基づいた一定の方法で行う習慣をつくることが推奨される。筋力は被検者の姿勢や検査時の筋長、すなわち関節の角度によって変化するからである。また筋力の程度によって診察の仕方を変えることも求められる。筋力低下がある場合は、重力の影響を除いた水平面内での間接の動きを検査するので、患者に側臥位などの姿勢をとってもらう必要がある。また患者さんの協力が必要な検査なので、どの程度全力が出されているのかも注意しておくことが必要となる。この検査では、不自然に筋力が途中で抜けてしまうなど、心因性を疑わせる要素を見いだすヒントが得られることもある。

筋の随伴症状には様々なものがあり、その時可能性のある疾患に随伴する症状を重点的に見ることになる。視診に際して、神経原性筋萎縮に伴いやすい線維束性収縮や、振戦その他の不随意運動の有無に注意する。筋ジストロフィーでは仮性肥大の有無、筋緊張性ジストロフィーでは筋緊張現象の有無を、甲状腺機能低下症ではマウンディング現象、筋炎では筋痛や皮膚症状、先天性ミオパチーではいろいろな小奇形の合併や脊椎の可動性、遺伝性ニューロパチーでは足の変形などに注目する。

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