神経原性筋萎縮症

遺伝性筋萎縮症

1.脊髄性筋萎縮症

脊髄性筋萎縮症(SMA)は常染色体性劣性遺伝を示す疾患で、重症度により4病型に分類されている。タイプI(ウェルドニッヒ・ホフマン病)は最も重症で出生前または出生後早期に発症し、筋力低下のため坐位をとるに至らない。タイプII(中間型SMA)では坐位は可能となるが歩行に至らない。タイプIII(クーゲルベルク・ウェランダー病)は歩行可能となる。タイプIV(晩発型)は35歳以降に発症するものをいう。主症状は四肢近位筋より始まる筋萎縮で、重症型ではフロッピーインファントの状態がみられ、呼吸不全となる。

SMAに関連する遺伝子は5qに存在するSMN(survival motor neuron)遺伝子で、テロメアにあるSMN1 と、それとほぼ同一で、よりセントロメア側に直列に重複して存在するSMN2より構成されている。SMN1とSMN2の差はエクソン7の1ヌクレオチドにすぎないが、このためSMN1はエクソン7を欠き、SMN2の産生する蛋白は不安定(Burnett, 2009)かつ機能不全(Le, 2005; Butchbach, 2016) とされている。SMA患者の95%以上ではSMN1が欠損しており、成人発症の患者の中にはSMN1は欠損していないが、変異がある例があるといわれている。大多数を占めるSMN1 を欠損する患者の重症度は、患者の有する SMN2 のコピー数に反比例する(Feldkotter, 2002)。

筋生検においてはSMAタイプIとIIの間に差は見られない。群集萎縮が見られるが、萎縮線維の角化は目立たず、円形のものが多い。また非萎縮線維はタイプ1線維が多く、全体にタイプ1線維プレドミナンスが目立つ。しかし、これと大規模なファイバータイプ・グルーピングとの鑑別が問題となる。全般に中心核やターゲット・ファイバー、スプリット・ファイバーなどの筋線維内部構築異常は目立たないことが多い。

SMAタイプIIIとIVの筋病理は多様で、同一患者においても筋により差が見られることがある。大規模な群集萎縮とファイバータイプ・グルーピングが見られる例がある一方、ファイバータイプ・グルーピングのみで萎縮が目立たない例もある。

2.球脊髄性筋萎縮症

球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は伴性劣性遺伝を示す家族性運動ニューロン疾患である(Kennedy et al. 1968)。関連遺伝子はXq11-12に存在するアンドロゲン受容体遺伝子で、N端近くにあるエクソン中にあるCAGリピートの異常伸張がみられる(La Spada et al. 1991) 。中年以降に始まる症状は、舌をはじめとする球筋と顔面筋、四肢近位筋にみられる萎縮と線維束性収縮で、これにしばしば女性化乳房や軽度の末梢神経障害が加わることがある。

筋病理では慢性神経原性筋萎縮の所見で、大規模な群集萎縮で、多数の極度の萎縮線維からなる群集が見られる。またファイバータイプ・グルーピングの規模が大きくなり、100本を超える群集もあり、ファイバータイプ・プレドミナンスとの鑑別が必要な例もある。

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