第5章 遺伝性ミオパチー

筋ジストロフィー

ミオパチーのなかでも遺伝性で進行性があきらかなものを筋ジストロフィーと呼んでいる。

しかし、後述する遺伝性でありながら進行性がめだたない疾患群である先天性ミオパチーとの境界は必ずしも明確ではない。筋ジストロフィーの中にも進行の遅いものもあれば、先天性ミオパチーの一部には症例によっては進行性がめだつものが存在するからである。

1.Duchenne 型筋ジストロフィー (DMD)

(1) 病態

ジストロフィンは筋細胞膜の裏打ち蛋白の一つで、細胞膜直下に存在する427KDa の蛋白質である。ジストロフィンをコードする遺伝子はX 染色体短腕(Xp21) にある 2.4 メガベースという巨大遺伝子で、79 のエクソンを持っている。筋細胞、脳皮質神経細胞、小脳プルキンエ細胞、グリア細胞、シュワン細胞など細胞により異なるアイソフォームがある。筋細胞で、ジストロフィンは細胞膜の内側にあるが、一様ではなく、コスタメアの中でもI 帯の近傍に多く分布する。ジストロフィンのN 端はF-アクチンに結合し、これを介して収縮蛋白を細胞膜に結合させる構造の一部を形成している。ジストロフィンのC 端はいわゆるジストロフィン結合蛋白複合体(dystrophin associated protein complex) に結合し、これを介して細胞膜貫通蛋白と基底膜指示蛋白にいたる、いわゆるジストロフィン軸(dystrophin axis) を形成する。これらの構造は、筋細胞表面の形状を保って保護し、収縮と弛緩により力を発生させ、骨・関節に効率的に伝えるという筋細胞本来の作用のために重要な役割を果たしている。ドゥシャンヌ(Duchenne) 型筋ジストロフィー(DMD) およびそのアレリックな病態(同じ遺伝子の異常による異なる病態)であるベッカー(Becker) 型筋ジストロフィーでは、ジストロフィンのそれぞれ欠損および部分欠損または不完全形成により、細胞膜の脆弱性が生じ、そのため破綻しやすい。細胞膜破綻による細胞外液の流入による細胞内環境の変化、特にカルシウムの流入による異常な筋収縮や蛋白分解の亢進が惹起され、筋細胞の変性・破壊が続くと考えられている。

(2) 症状

2 歳ないし4 歳で発症する。立位と歩行ができるようになった後、転倒しやすい、ジャンプができないなどの症状に気づかれることが多いが、処女歩行の時期の遅延や乳児検診における運動能力の発達不良として早期に発見されることもある。その後進行して10 歳台の前半で歩行不能、同後半で呼吸障害があきらかになり、20 歳前後で呼吸不全となる例が多い。心筋障害には個人差が多いが、予後に大きな影響がある。また一部に知能障害を合併することがある。症状は四肢近位筋および躯幹筋の筋萎縮と筋力低下で、翼状肩甲(Fig.11)、登攀性起立(Gowers 徴候)(Fig.12)、腰椎前弯、動揺性歩行、下腿筋の仮性肥大、アキレス腱の短縮などの症状がみ られる。

Fig.11
Duchenne によるイラストでは近位筋萎縮、仮性肥大、翼状肩甲、脊椎の前弯が強調されています。
# Duchenne ’ s original case, showing marked calf enlargement and lumbar lordosis.
(From Arch. Cén. Méd. Vol. 11, p. 8 (1868)

Fig.12
幼児の診察に役に立つ登攀性起立とよばれる、自分自身によじ登るような起立の仕方、Gowers 徴候。
#Sir William Richard Gowers (1845-1915)

検査成績は血清中の筋逸脱酵素(クレアチンキナーゼ:CK、アルドラーゼその他)の異常高値をみとめる。筋電図では筋原性の変化がみられる。遺伝子解析でDMD の約80%に異常を見いだす。

(3) 診断

上記の特徴的な発症のしかたと症状から、通常診断は容易であるが、定型的な例でもインフォームドコンセントを得た上で、診断確定と難病申請や将来の遺伝子治療のためのデータベース登録などにそなえて遺伝子解析を行う。また非定型的な点があり、診断に疑のあるときには筋生検のうえ、ジストロフィンテスト(後述)で免疫組織化学的にジストロフィンの欠損またはBMD の例では減少が見られるか否かを証明する。母や女性の同胞・親族に関する保因者診断は、診察、血清CK 活性、筋電図、遺伝子解析やジストロフィーフィンテストなどで、かなりの精度で可能であるが、実施にあたっては、慎重な倫理的配慮が必要である。

(4) 筋病理

ミオパチーの所見、すなわち筋線維横断面の円形化、内在核の増加、間質の開大がみられる。また間質の線維化および脂肪沈着が強いことが多い(Fig.13)。

Fig.13
Duchenne型の筋ではミオパチーの所見、すなわち筋線維の大きさが小さいものから正常なものまでみられ、筋 線維の横断面は円形化し、内在核が増加し、間質がひろくなり、そこに線維化と脂肪沈着が見られる。またDuchenne型で はよく過収縮、hypercontraction、を起こして濃く染まるopaque fibre (矢印)が見られる。

壊死線維、再生線維ともに多数見られる。HE 染色やトリクローム変法染色(TC) で筋形質が強染する横断面が円形の線維が散見されるが、これはopaque fibre と呼ばれる過収縮状態の線維である。進行した例では筋線維の変性にともなう筋線維数と筋線維の占める面積が著しく減少し、数本の線維が、線維化と脂肪化に伴って開大した間質の所々に離ればなれの島状に残存するのみの状態となる。

組織化学的には虫食い状線維(moth-eaten fibre) やミトコンドリア酵素の筋鞘下の高活性(subsarcolemmal hyperactivity) などの非特異的な筋線維の内部構築の異常が時に見られるが、筋ジストロフィーの他の病型や他のミオパチーに比較するとむしろめだたない。Fibre type に関してはtype 1 fibre predominannce が見られることが多い。また再生線維を主とするtype 2C fibreが出現する一方、type 2B fibre は同定しにくくなる例が多い。

(5) 免疫組織化学

ジストロフィン遺伝子は巨大な遺伝子であるため、免疫組織化学的な検査の精度を上げるため、異なるドメインに対する2 ないし3 種類の抗体を使って検査するのが一般的である。方法に関してはテクニカル・データの章を参照。正常ではすべての筋線維の表面が染色される(Fig. 14)。

Fig.14
正常筋ではジストロフィン染色で筋線維表面に蛍光が見られる。

一方DMD では染色されない(Fig.15)。

Fig.15
Duchenne型の患者では殆ど蛍光はみられず、ジストロフィンが欠損していることがわかる。

わずかにrevertant fibre と呼ばれる線維が染色性を示すことがある。Revertant fibre は一部の少数の細胞でいったん頓挫したreading frameが回復しうる小規模なdeletion など、異常ながら少量のジストロフィン様蛋白が出現しうる分子遺伝学的機構が働いたためと考えられている。保因者ではジストロフィンが不規則で細胞表面の一部のみに発現している線維が観察される(Fig.16)。

Fig.16
保因者の女性では正常なX染色体が産生するジストロフィンが部分的にみられます。ジストロフィンが欠損している部分の筋核では、Lyon 現象により、正常なジストロフィン遺伝子を持つX染色体の発現が抑制されている。

しかし、欠損の程度は症例により、また部位により異なるので、ほぼ正常に発現しているからといって、保因者であることを完全には否定できない。特に無症状の保因者ではジストロフィン欠損線維は少数にとどまることが多い。一方、他の筋疾患で筋変性が強い場合は、ジストロフィンの染色性も低下または消失することが多いので、結果の解釈には、隣接切片の他の筋表面蛋白染色結果と対比するなどして、慎重を期す必要がある。ユートロフィンは、ジストロフィン欠損部位に発現していることが多い。

2.Becker 型筋ジストロフィー(BMD)

(1) 病態

ジストロフィン遺伝子上の変異がDMD で起きるようなジストロフィンの完全欠損をもたらすことなく、reading frame が変異部以降も保持されるなどの機序で、アミノ酸構成やサイズの点で正常とは異なるものの、不完全なジストロフィンが筋膜に発現する状態がBMDの臨床像を呈する分子遺伝学的背景である。Western blot 解析ではrod domain に対する抗体で検査した場合、正常の35 から80%のジストロフィン量が検知される。また分子量も異常であることが多い。

(2) 症状と診断

BMDの症状は多様で、DMDとの中間型といわれる"outlier"ではDMD類似の経過となる一方、もう一方の極には無症状の高CK 血症を呈する例まで、幅広く存在する。しかし多くは1歳台の前半に起立歩行障害で発症し、緩徐に進行する。歩行困難となる年齢は個人差が大きいが平均30歳台である。近位筋の筋力低下が主症状で、下腿筋の仮性肥大がしばしばみられる。予後判断とともに遺伝子相談の観点からも肢帯型筋ジストロフィーとの鑑別がとくに重要だが、遺伝子検査とジストロフィンテストが有用である。DMD に比較すれば低頻度ながら、心筋障害や知能障害がみられる。

(3) 筋病理と免疫組織化学

筋病理は基本的にDMD と共通の変化を示すが、変化の程度はDMD より穏やかなことが多い。ジストロフィンの免疫組織化学についてはDMD の項で概要を述べた。抗体の標的とするエピト-プと患者のジストロフィンの欠損部位によって様々なパターンがある。全体に染色性の低下する例が多いが、モザイク様の染色パターンを示す例もある(Fig.17)。

Fig.17
Becker 型筋ジストロフィーでは、正常より小さいサイズのジストロフィンが、正常と比べて少ない量生成されるため、ジストロフィンの染色性は抗体の認識部位により異なるが、一般に著しく低下する。

3.Emery-Dreifuss 型筋ジストロフィー

早期から肘や脊柱の関節拘縮があり、上肢近位筋と下肢遠位筋を主とする筋萎縮と心伝導障害をきたす進行性ミオパチーは今世紀初頭から報告されていた。その多くがX 染色体性劣性遺伝を示すものの、DMD とは異なる疾患として1966 年にEmery とDreifuss によって記載された。

このEmery-Dreifuss 型筋ジストロフィー以外に類似の症候の常染色体優性遺伝をとる疾患(AD-EDMD) が見いだされた今日、両方を含めたEmery-Dreifuss 症候群という病名を使用する場合もある。

(1) 病態

X 染色体型EDMD は核膜の裏打ち蛋白であるエメリンの遺伝子変異と関連づけられている。常染色体性優性遺伝をとるAD-EDMDは同じく核膜の内側に存在する蛋白ラミンA/C遺伝子の変異と関連づけられている。この2 つの類似した部位にある蛋白の異常が、臨床的に共通点の多い症候を示す機序は明らかにされていない。

(2) 症状

X-EDMD では筋力低下が明らかになる以前から肘関節や足関節、および頚部脊椎の関節拘縮がしばしば見られる。頚部は屈曲が制限されるため、強く伸展するにともない、胸椎は前屈する例が多い。初期には上腕と下腿の筋萎縮がめだつが、やがて下肢近位筋の筋力も低下する。心伝導障害は時に心筋障害も伴い、しばしば突然死の原因となる。

AD-EMMD はX-EDMD とほぼ同じ症候を示す例がある一方、関節拘縮を伴わず、肢帯型筋ジストロフィーの症状に心伝導障害を伴う病型を呈することがある。ラミンA/C の遺伝子異常の臨床症候はさらに多様で、心伝導障害のみの例や、リポジストロフィー、早発老化などの例が報告されている。

X-EDMMD では非特異的ながらジストロフィー一般に見られる壊死線維、再生線維、内在核の増加、split fibre やmoth-eaten fibre などの内部構築の異常がみられる。Fibre type に関する特異的な変化はない(Merlini 1986)。

AD-ED では非特異的なミオパチーの所見があるが、変化は一般的に軽い傾向がある。

(3)筋病理

X-EDMMD では非特異的ながらジストロフィー一般に見られる壊死線維、再生線維、内在核の増加、split fibre やmoth-eaten fibre などの内部構築の異常がみられる。Fiber type に関する特異的な変化はない(Merlini 1986)。

AD-EDMD では非特異的なミオパチーの所見があるが、変化は一般的に軽い傾向がある。

(4)免疫組織化学

X-EDMD では抗emerin 抗体を組織切片に反応させると、正常筋でみられる核膜にたいする反応が見られない。一方、AD-EDMD ではlamin A/C にたいする免疫組織化学的な反応は通常の方法で観察すればほぼ正常保たれている。しかし、電子顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡などで詳細に検討すると、異常をみとめる(Matsubara 2004) 。後者の診断には遺伝子解析が必要である。

4.顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (facioscapulohumeral muscular dystrophy: FSH)

(1)病態

特徴的な分布の筋萎縮を示すこの病型は、Landouzy-Dejerine 型筋ジストロフィーとも呼ばれるが、最初の記載者はDuchenne (1868)であるといわれている。一般に有病率は5/10 万人とされているが、地域差が大きい。常染色体性優性遺伝を示し、関連遺伝子は4q35、すなわち第4染色体長腕端付近にある。ここでD4Z4repeat の欠失および、さらに末端側の4q35 に存在するアリルの異常がみとめられる( Deak 2007)。

D4Z4 はその中にDUX4 遺伝子を含んでいる。D4Z4 は正常では10~100 の反復配列を示すがメチル化されており、その抑制効果によってDUX4 遺伝子は体細胞では発現しない。しかしD4Z4 の繰り返し配列が短縮する変異が起きると抑制は緩みDUX4 遺伝子が翻訳され、発現する。この遺伝子の発現と関連しておきる筋細胞の障害がFSH1 型の病態と考えられている。さらに18 染色体SMCHD1(structural maintenance of chromosomes flexible hinge domain containing 1)遺伝子におきる点変異がSMCHD1 蛋白の減少をおこすと、第4染色体長腕末端にD4Z4 繰り返し配列の短縮がなくてもDUX4 が発現しFSH2 型が起きる事が明らかになった。すなわちSMCHD1 はepigenetic にDUX4 の発現を修飾することにより疾患をおこす(Sacconi 2015,Daxinger 2015) 。また小血管の形成に関与するタンパク合成が亢進していることが報告されている(Osborne 2007)。FSH1型と2型の間に症状などの臨床的特徴に差があるか否かはまだ明らかになっていない。

(2) 症状と診断

多くの場合、患者が症状を自覚するのは、上肢の前方および側方挙上(それぞれ肩関節の屈曲および回外)が困難となった時点である。しかし、この時点で診察すると顔面筋の萎縮が明らかである。従って、真の発症時期は明らかではないことが多い。一般的には顔面の筋力低下の発症は幼児期で、上肢帯の症状を自覚するのが青年期であるが、中年になって、初めて発見される例も多い。おそらく、生涯無自覚の軽症例も存在すると推定される。初発症状である顔面筋萎縮は、眼輪筋、口輪筋、頬骨筋に起こりやすく、側頭筋、咬筋、外眼筋などは初期には障害されにくい。上肢帯の筋のなかでも、僧帽筋、菱形筋、前鋸筋、広背筋など、肩甲骨を胸壁に固定する筋を中心に障害されやすい。肩甲骨は胸壁から遊離したようにその輪郭がめだつようになり、あたかも上側方に移動したかのように見える。これに伴い頚部の外縁を形成する僧帽筋外縁が側方に広がり、首の下部が広がったように見える.病初期には比較的筋力の保たれる棘上筋と三角筋の働きで腕を水平までは側方挙上(外転)できるが、それより上に上げることは、肩甲骨が安定しないためにできない.さらに下肢の諸筋、特に前脛骨筋の筋力低下を示す例がある.少数だが不整脈を伴う例がある。一部、呼吸不全に至る例が存在する。また網膜の血管異常(Coats 症候群)や難聴の合併例が報告されている(Wulff 1982, Taylor 1982)。

(3) 筋病理

ミオパチーにしばしば炎症が加わる(Fig18)。ミオパチーはDMD などに比較して変性の程度が軽い傾向があり、それに伴って再生線維もめだたない。具体的には、筋線維横径の大小不同は著しいが、その原因は萎縮線維とともに肥大線維が多いことにある。萎縮線維の一部は輪郭が角化しているが、群集を形成する傾向は見られない。内在核は存在するが他の筋ジストロフィーに比較して少ない。

Fig.18
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー局所的に細胞浸潤をみとめる。この例ではCD68+のマクロファージが主体である。非萎縮線維の多くは肥大線維である。 また、内在核は比較的少ない。

5.肢帯型筋ジストロフィー

肢帯型筋ジストロフィー( limb-girdle muscular dystrophy:LGMD ) は、少なくとも27をこえる異なる疾患を類似する症状に基づいて寄せ集めた疾患群である。その概念はWalton とNattrass(1954)を中心に1950 年代に形成されたが、その後、変遷を遂げている。初期の概念は"小児期(1 歳台の後半)から成人まで、ときに中年で、下肢帯または上肢帯の筋力低下で発症するもので、大多数は常染色体性劣性遺伝を示す。通常は緩徐進行性で、ときに高度の障害や死をもたらす"疾患であった。しかし、症例の蓄積とともに概念の境界は拡大し、1995 年のENMCLGMD consortium では四肢近位筋を主とする筋力低下をきたし、CK が高く、ジストロフィー変化を筋病理で示す病態と再定義されるに至った(Bushby 1995)。従って常染色体性優性遺伝の例も含まれている。主な肢帯型筋ジストロフィーのリストを表(Tab.1)にまとめた。

常染色体優性遺伝

  遺伝子座 変異蛋白 主な臨床症状など 同一遺伝子による病態
LGMD1A 5q31 Myotilin 近位筋、鼻声 myofibrillary myopathy
LGMD1B 1q11-q21 Lamin A/C 近位筋、心筋、不整脈 AD-EDMD, CMT2B, lipodystrophy, cardiomyopathy, progelia
LGMD1C 3q25 Caveolin 3 近位筋、下腿肥大 rippling muscle disease, distal myopathy
LGMD1D 7q Desmin 下肢帯、上肢帯  
LGMD1E 6q23 DNAJB6 近位筋、心筋  
LGMD1F 7q32.1-q32.2 Transportin スペイン人症例、近位筋  
LGMD1G 4q21 HNRPDL ブラジル人症例、指拘縮  
LGMD1H 3q25.1-p23 不明 イタリア人症例 近位筋、下肢、下腿肥大  

常染色体劣性遺伝

  遺伝子座 変異蛋白 主な臨床症状など 同一遺伝子による病態
LGMD2A 15q15 Calpine-3 近位筋、翼状肩甲  
LGMD2B 2p13 Dysferlin 近位筋、遠位筋 Miyoshi myopathy, distal myopathy
LGMD2C 13q12 γ-sarcoglycan 近位筋、下腿肥大  
LGMD2D 17q12-21 α-sarcoglycan (adhalin)   SCARMD
LGMD2E 4q12 β-sarcoglycan    
LGMD2F 5q33-34 δ-sarcoglycan    
LGMD2G 17q11-12 Telethonin 下肢近位・遠位筋、上肢近位筋  
LGMD2H 9q31-34 TRIM32 米在住ハッター症例  
LGMD2I 19q13.3 Fukutin-related protein 上肢近位筋、下肢  
LGMD2J 2q24.3 Titin フィンランド人症例、前脛骨筋  
LGMD2K 9q34.1 POMT トルコ人症例、知能障害、幼児発症  
LGMD2L 11p13-p12 Anoctamin 5 フランス系カナダ人、近位筋  
LGMD2M 9q31 Fukutin 日本人、幼児発症、知能障害なし 福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD) , cardiomyopathy
LGMD2N 14q24 POMT2 筋緊張低下、運動発達遅延、翼状肩甲 α-dystroglyconopathywith mental retardation (CMDB2)
LGMD2O 1p32 POMGnT1 小児発症、近位筋、翼状肩甲、足関節拘縮  
LGMD2P 3p21 α-dystrooglycan (DAG1) 小児発症、近位筋、知能障害、足関節拘縮  
LGMD2Q 8q24 Plectin 運動発達遅延 CMD with familial junctional epidermolysisbullosa
LGMD2R 2q35 Desmin 顔面、近位筋、呼吸筋、心筋  
LGMD2S 4q35.1 TRAPPC 11 顔面、近位筋、知能発達遅延  

Tab.1
主な肢帯型筋ジストロフィー

(1) 病態

代表的な病型の遺伝子座、関連する蛋白質、発症年齢と臨床的特徴などを表にまとめた。

(2) 筋病理

肢帯型筋ジストロフィーにおける筋病変は個々の病型によって違いはあるが、全般的な共通点もある.本節でまず共通的な所見を述べて、次項で各病型の特徴について述べる。共通して見られるのは慢性に結果するミオパチーの所見である(Fig.19)。

Fig.19
肢帯型の1例の筋生検. 筋線維の横断面は円形化し、横径に大小不同が見られる。極度に萎縮した線維 から正常径、さらに肥大線維まで偏りなく存在する。内在核が高頻度の見られ、また間質の開大と線維化をみとめ る。白く抜けた空間が目立つのは脂肪沈着の部位。いずれも慢性のミオパチーを示す所見である。

筋線維横径の著しい大小不同は、萎縮線維とともに肥大線維もあることによる.肥大線維はfibre splitting を起こすことがある。内在核は増加し、しばしば内在核を一端に持つ、あるいは内在核を通過するfibre splitting を見ることがある。

(3) 症状と筋病理各論

我が国で頻度の多い病型について臨床的特徴を要約するとともに各病型における筋病理と免疫組織化学の所見について述べる。

i) LGMD1A

ミオティリンはZ 帯に存在し、他のZ 帯形成蛋白と結合しながらアクチン線維の構造を維持するために重要な役割を果たしている。染色体5q31 に位置するミオティリン遺伝子の変異によりLGMD1A とmyofibrillar myopathy が起きる(Salmikangas 1999, Selcen D 2004)。その臨床症状は40 歳台以降に起こる遠位筋または近位筋の筋力低下または運動に誘発される筋痛で発症し、緩徐に進行して全身に広がり、一部に呼吸筋を障害する。遠位型の一部に声帯と咽頭筋を障害するものがある(Salmikangas 1999)。時に心筋障害や末梢神経障害をともなう(Olive 2005)。

筋病理学的にはrimmed vacuole を含む空胞形成をともなうmyofibrillar myopathy の所見で、超微形態はZ line streaming などの局所的筋原線維変性と空胞形成が主要所見である(Carisson,2007)。免疫組織では局所的にmyotilin が量的に増加している。ただし、myotilin の増加は疾患特異的ではなく、nemaline myopathy やcentral core disease でも報告されている(Schroder 2003)。

ii) LBMD1B

ラミンA/C は核膜を構成する蛋白の一つで、核骨格蛋白としての働きばかりでなく、蛋白合成などに関与すると考えられている。遺伝子は1q11-23 にあり、その変異に伴って見られる病態は多系統に及び、近位型筋萎縮を主徴とするLGMD1B (Kitaguchi 2001)、常染色体優性遺伝型エメリー・ドライフェス症候群(Bonne 1999)、拡張型心筋症、心伝導ブロック(Sinagra 2001)、

家族性局所性リポジストロフィー(Cao 2000)、下顎先端異形成症(Novelli 2002)、ハッチンソン・ギルフォード早老症(Kirschner 2005)、軸索型シャルコー・マリー・トゥース病2C型) (Goizet 2004)、その他である。

LGMD1B の筋病変は比較的穏やかなミオパチー変化にとどまる例が多い。電顕では核膜の変化が見られることが多い(Matsubara 2004)。しかし、免疫組織学的にはラミンA/C の変化は通常の方法では異常を検知することは困難である。

iii) LGMD1C

カベオリン-3(caveolin-3: CAV3) は筋細胞膜にある50-100 nm の陥凹部を構成する蛋白で、細胞膜を通過する物質の輸送とシグナル伝達に役割を果たすと考えられている。またジスフェルリンをはじめとする細胞膜蛋白と密接に連関する。ヒトのCAV3 遺伝子は3p25 にあり、その変異はLGMD1C(Minetti 1998)の他に本態性高CK 血症とrippling muscle disease (Betz 2001)を起こす。

LGMD1C の臨床症状は小児期に起きる近位筋の筋痙攣や筋萎縮のことが多い。遠位型筋萎縮を示すこともある。Rippling muscle disease では筋線維の被刺激性がまし、軽い叩打などの刺激で局所の筋線維が収縮し、わずかな隆起が周囲にされさざ波のようにその筋の辺縁に向かって広がる現象がみられる。

筋病理学的には非特異的なミオパチーの所見があるが、免疫組織学的には筋線維表面にCAV3 が検出できない。しかしCAV3 の量の減少はLBMD2B でも二次的に観察される。

iv) LGMD1D,E,F,G

LDMD1D は2q35 に位置するデスミン遺伝子の変異と関連している(Greenberg, 2012*)。デスミンは中間径フィラメントを形成する細胞骨格蛋白で、骨格筋ではZ 帯に主に分布する。LDMG1D は較的若い成人に緩徐進行性の近位筋筋力低下で発症し、拡張性心筋症と心伝導障害を伴う。遺伝性心筋症(CMD1F)を主徴とする家系も知られている。筋病理的にはcytoplasmic inclusion がみられ、顆粒線維性の封入体が出現する。

LGMD1E はまれな疾患で、7q36 にあるDNAJ subfamily B member6 (DNAJB6) 遺伝子の変異を伴う。DNAJB6 は熱ショック蛋白40 ファミリーの属するJ 蛋白の一種でZ 帯に分布し、分子シャペロンとして蛋白の結合や折りたたみなどの過程に関与すると考えられている。

LGMD1E では成人発症で緩徐進行性筋力低下が下肢からはじまり、軽度の血清CK 活性高値を示す。時には遠位型筋力低下を示す。筋病理学的には自己融解空胞と蛋白凝集体を伴うmyofibrillary myopathy を呈する(Sarparanta 2012)。

LGMD1F では7q32.1-7q32.2 にあるトランスポルチン(transportin:TNPO) 3 遺伝子に変異がある。この蛋白は核膜に存在しタンパク質の核内への移行に関与する。臨床的には発症は乳児から中年までと巾があり、普通は下肢の筋力低下から発症し、その分布は近位筋と遠位筋のいずれの優位もある。少数だが翼状肩甲、眼瞼下垂、呼吸不全などを伴う例がある。筋病理学的にはミオパチー性の筋変性像にくわえて筋核内に横径10-20 nm の線維性封入体がみられ、同時にrimmed vacuole が観察された。

LGMD1G は南米で少数例が報告されたのみのまれな病態で4q21 に位置するHNRPDL 遺伝子の変異によるとされている。この蛋白はリボ核蛋白ファミリーに属しmRNA 合成や代謝に関与する。臨床的には成人発症の下肢から始まる近位筋萎縮が主症状で、白内障と2 型糖尿病を合併しやすい。筋病理的には軽度のジストロフィー変化、すなわち筋壊死や間質線維化をともなうミオパチーで、HNRPDL は筋核周囲に染色されるが、患者では正常より強く染まりやすいと報告されている(Vieira 2014)。

LGMD1H はイタリア人1家系の11 例で報告された。30 歳以降には発症、緩徐進行性の近位筋萎縮で、一部下腿筋肥大を伴う。関連遺伝子は3p23-25.1 の部位と推測されているが、遺伝子自体は同定されていない。ミトコンドリアの異常の可能性が示唆されている(Bisceglia 2010)。

v) LGMD2A

発症年齢の幅は広いが、多くは10 から15 歳で、腰帯筋とくに内転筋群と大殿筋の筋力低下で発症する。大腿外転筋群(小殿筋、中殿筋、梨状筋など)が比較的保たれることが多い。走ることと階段の昇降が不自由となり、動揺性歩行が見られるようになる。翼状肩甲がおこりうる。下肢近位筋の筋力低下が進行するが、下腿筋の肥大がある例は少数で、あっても程度は軽い。一方、足関節の拘縮が見られることは多い。血清CK 活性は高いが、LGMD2B ほど高くはない。重症度にはおおきな個人差があるが、多くは30 歳前後に車いすを必要とする。心筋障害はまれで、知能障害はない(Fardeau 1996)。

筋病理では壊死線維と再生線維があり、筋内鞘に線維化をともなう間質の開大がおきる。Type 1 fibre predominance が見られるのが普通で、筋線維には多くのlobulated fibre が含まれる。免疫組織化学ではdystrophin, utrophin, sarcoglycan は正常に筋線維表面に局在する。Calpine 3は他の筋ジストロフィーの原因蛋白のように筋膜や核膜に分布する構造蛋白ではなく、筋形質に分布する不安定な酵素蛋白であるため、抗体による免疫染色を使っての診断は確立しておらず、実施しても結果の解釈に困難がある。診断は主にimmunoblotting によって行われている。

vi) LGMD2B

ジスフェルリン異常症の症状は多様で、肢帯型の例もあるが、遠位型の分布を示す三好型筋ジストロフィーの病型をとるものもある。十歳台で非常に高い血清CK 活性を示し、本態性高CK 血症として検査を受ける例が多く、その後年齢と共に次第に下肢筋力低下が明かになる経過をたどる。肢帯型の病型を示す患者でも遠位筋に萎縮が見られる例が多く、下腿筋の仮性肥大は見られない。20 歳台から少しずつ筋力低下が目立ち始める例が多いが、進行速度と重症度には個人差が大きい。まれに高齢発症例が報告されている(Klinge 2008)。

筋病理ではミオパチーの変化が見られるが、高CK 血症のみの段階では筋変性は比較的軽度である。しかし、しばしば局所的に炎症像が散見される例があり(Fig.20)、炎症性筋症との鑑別が問題となる。筋病理像から肢帯型と三好型を区別することはできない。

Fig.20
LBMD2Bの一例:ミオパチーの変化に加えて軽度の細胞浸潤が見られる。

免疫組織化学では、抗 dysferlin 抗体に対する筋表面の染色度合いは、染まらない例が多い(Fig.21)。

Fig.21
肢帯型の病型特定には免疫組織化学と遺伝子解析で試みられる。このLGMD2Bの例ではジスフェルリンの欠損が推定され、遺伝子検査でもtype2Bと確認された。この病型は、下段の様にMHC class I 抗原が軽度に異常発現することがある。

正常筋でも比較的淡い染色しか得られない抗体が多いことと、筋ジストロフィーをふくむ他の筋疾患でも二次的にdyferlin の染色性の低下がおきることもよくあるので、判断には慎重さが求められる。

一般に免疫染色はスクリーニング検査と考え、確定診断のためには遺伝子解析が必要である。

遺伝子異常に関してはLGMD2B と三好型遠位型筋ジストロフィーの異常に差はなく、同じ遺伝子異常でもいずれも起こりうるとされている(Illarioshkin 2000)。遺伝子解析でcompound heterozygote が確認できる例が66%、一つの病的アリルが確認できた例が22%との報告がフランスからある(Krahn 2009)。保因者の病態については十分確認されていないが、筋のdysferlinタンパクが半減していたとの報告がある(Fanin 2006)。

vii) LGMD2C, D, E, F

サルコグリカン(sarcoglycan)はα,β,γ,δの4サブユニットの複合体である.サルコグリカンはジストロフィン糖タンパク複合体(dystrophin glycoprotein complex) の一部を形成し,筋膜下の細胞骨格蛋白と細胞表面のマトリックスを結ぶ重要な役割を担っている。サルコグリカン異常によるLGMD は他の病型(2A、2B など)と異なり、臨床症状で下腿筋の仮性肥大が85%と高頻度にみられ(Eymard 1997)、時に巨舌をみるなど、ジストロフィン異常症と類似した点があり、Severe childhood autosomal recessive muscular dystrophy (SCARMD)とも呼ばれ。αサルコグリカノパチー(Adhalinopathy) は本邦では筋ジストロフィーの約2%に存在すると報告されている(Hayashi 1995)。

生検筋では一般に変化はLGMD2A, 2B と比較して強いことが多く、壊死再生が活発であるのに対して、lobulated fiber の頻度は比較的低く、type 1 fibre predominance は比較的弱い。免疫組織化学的検査では,抗アダリン(α- sarcoglycan) 抗体に対して,反応性が失われたものが53%あった一方,残る47%では反応の減弱が見られた(Eymard 1995).このようにどのサブユニットに変異があっても、他のサブユニットの染色性も低下することが多いが、当該のサブユニットの低下が最も激しい。

viii) LGMD2G, H,I,J,K,L,M

LGMD2G はテレトニン(teletonin)遺伝子の変異で発生する(Vanizof 2002)。Teletonin はZ線に存在する19-KD の蛋白でtitin をZ 帯に固定する役割があるといわれている。LBMD2G は常染色体劣性遺伝LGMD の約2.7%を占め、症状は近位筋または遠位筋萎縮を呈し、翼状肩甲と下腿の筋肥大を伴いやすいとともに下垂足を呈することもある。LGMD2G 患者骨格筋では免疫 組織化学的には抗体に全く反応しないか、きわめて弱い反応をする(Francis 2014)。

LGMD2H はE3-ubiquitin ligase であるtripartite motif containing protein (TRIM32) gene のpoint mutation によって起きる(Frosk, 2002*)。1976 年にカナダ在住のフッター派の人々に見られたLGMD の特徴が報告され、1998 年にはその遺伝子座が9q31-33 にあることが、さらにそれがTRIM32遺伝子の変異によることが明らかになった。変異のみられるNHL ドメインはユビキチン化の標的蛋白との結合部位と推定されている。TRIM32はLGMD2H の他にアメリカのフッター派住民(Jerusalem 1973)と南ドイツ住民で報告されていたsarcotubular myopathy の原因遺伝子であることも明らかになった。LGMD2H の主症状は緩徐進行性の近位筋萎縮で、しばしば顔面筋を障害し、翼状肩甲や腓腹筋の肥大と足関節拘縮を伴うことがある(Shieh 2011)。顔面肩甲上腕型の分布を示す例も報告されている。血清CK 活性の増加は比較的軽度である。筋電図では筋原性と神経原性変化が混在し、筋病理学的にはミオパチーであるが、vacuolar myopathy を呈し、fiber type grouping を伴うことがある。一部の保因者の筋にvacuolar myopathy がみられといわれている。

LGMD2I、LGMD2K およびLGMD2M はそれぞれfukuchin related protein (FKRP),protein-O-mannosyl transferase 1 (POMT1) およびfukuchin 遺伝子の変異によるもので、いずれも筋表面の細胞骨格蛋白であるα-dystroglycan (ADG)の糖鎖形成(glycosylation)に必要と考えられる蛋白である。それらの変異のため細胞表面の基底膜の形成が障害され、筋細胞の脆弱性がおきると考えられており、この一群の疾患はα-dystroglycanopathy と総称されている(Muntoni,2008)。

LGMD2I はアジアでは比較的まれであるが、欧米では頻度の高いLGMD である。フランスの報告では(Bourteel 2009)幼児期から20 歳台までに、平均年齢9歳で運動時筋痛や易疲労性で発症し、その後下肢近位筋の筋力低下を主徴とし、上肢近位筋も障害され、一部で翼状肩甲を示した。進行性で平均20歳ごろ車椅子を要した。その後大多数の例で呼吸不全が30 歳頃から出現し、発症平均16 年で一部に夜間NIPPV を使用するに至った。少数例で心筋障害や不整脈が見られた。筋病理ではジストロフィーの変化で、免疫組織学的にはα-dystroglycan の染色性が低下しているか、または斑状(patchy)であった。

LGMD2J はZ 線に存在する蛋白質であるtitin の遺伝子変異による稀な疾患で、このため筋構造蛋白の異常をきたす筋原線維ミオパチー(myofibrillar myopathy)(別項)の一つでもある。Titin 遺伝子異常症にはLGMD の病型ばかりではなく、フィンランドでは前脛骨筋萎縮を主徴とするtibial muscular dystrophy (Udd myopathy) の病型も知られている。

LGMD2M の原因であるfukutin 遺伝子異常およびLGMD2K の原因であるPOMT1 遺伝子異常については先天性筋ジストロフィーの項で述べる。なおLGMD2K については同じ遺伝子異常による先天性筋ジストロフィーであるWalker-Warburg syndrome よりも臨床症状の比較的軽い、知能障害を伴ったトルコ人の例が報告されている(Dincer 2003, Balci 2005)。Fukuchin 遺伝子の異常は、最初重篤な運動障害と知的障害をともなう福山型先天性筋ジストロフィー(後述)で見いだされた。しかし、その後次第に多様性が明らかとなった。すなわち知的障害や大脳形成異常をともなわず、骨格筋症状が比較的軽症で肢帯型筋ジストロフィーの病像を呈するか、あるいはほとんど目立たない状態で、拡張性心筋症が主症状、ときには唯一の症状である例が見いだされるようになった。このような状態をLGMD2M と呼んでいる(Murakami 2006,Godfrey 2006)。

6.眼咽頭型筋ジストロフィー

この病気では、眼瞼下垂を主とする外眼筋と咽頭筋、球筋の筋力低下に加えて、四肢近位筋に症状が見られる。球症状は嗄声や舌萎縮、嚥下困難として現れやすい。中高年になってから発症し、緩徐進行性で、高齢になって歩行困難になる患者が多い。大多数の患者で初発症状となる眼瞼下垂のため、それを補正するために首を伸展する姿勢がよく見られる。常染色体性優性遺伝形式をとるため、先祖の写真を見せていただくと眼瞼下垂の方を見いだすことがある。

遺伝子異常はカナダ・ケベック州のフランス系住民で見いだされた染色体14q.11.1 のpolyadenylate binding protein nuclear 1(PABPN1)遺伝子にあるGCG repeat の伸張である。

筋病理学的には比較的軽度のミオパチーで、小角化線維のように一見みえる萎縮線維にしばしば縁取り空胞がみとめられる(Fig22a)。一部の核は大きく中央に染色の薄い部位を有し、電子顕微鏡ではこの部分に横径10 nm とやや細い線維性封入体がみられることがある。この封入体はPABPN1 を含んでおり、この線維は複雑な網目状の配列を示す(Tome 1989)(Fig.22b,c)。

Fig.22
眼咽頭型筋ジストロフィーは優勢遺伝形式をとり、poly A binding protein nuclear 1(PABPN1) の遺伝子異常によりおきる疾患である。筋病理では縁取り空胞(矢印)をもつ萎縮線維が散見され、その核の一部にはPABPN1の増加が見られ(b)、電子顕微鏡で10nmの poly A binding protein を含む線維性封入体が観察される(C).

7.筋強直性ジストロフィー

筋収縮が遷延し、弛緩が遅延する現象で、筋電図でmyotonic discharge が検出されるのが筋強直現象である(Fig.23)。本邦では筋強直現象(myotonia) を伴う筋ジストロフィーは大多数筋強直性ジストロフィー1 型(MD1) であるが、欧州で報告された2 型(MD2)もごく少数存在する。

Fig.23
筋強直現症は収縮した筋の弛緩に時間がかかる現象で、強く握った指をほどくのが遅れる grip myotonia が見られる。

MD type 1

発症年齢は胎児から高齢まで広く、世代が下がるにつれて早くなる傾向(anticipation) を示す。筋萎縮は顔面、頸部、四肢遠位筋に特に目立つ。心筋障害、心伝導異常、白内障、禿頭、および糖尿病など多臓器の異常が合併しやすい。また軽度の知能障害を合併することがある。血清CK は軽度から中等度に増加する。

染色体19q のdystrophia myotonica protein kinase 遺伝子(DMPK) の非翻訳領域にあるCTG 反復配列の延長があり、これが転写されてできるpre-mRNA のCUG 反復配列が、以下のような様々な蛋白生成にスプライシング異常を起こすと推定されている。CLCN1 (voltage sensitive chloride channel 1), RYR1 (ryanodine receptor 1), MTMR1 (myotubularin-related protein 1), INSR(insulin receptor), TNNT2 (troponinT2), GDIN1 (NMDA receptor subunit 1), APP (pre-amyloid beta A4), MAPT (microtubule-associated protein tau)。このような多種の蛋白合成に影響を与えることが、他臓器に障害を引き起こす背景にあると推定されている。

筋病理学的にはミオパチーで、内在核が増加し、ring fiber やsplit fibre などの筋線維内部構築異常が見られやすい。またtype 1 fiber atrophy をみとめる(Fig.24)。

Fig.24
筋強直性ジストロフィーの筋はミオパチーの変化を示す。内在核が極端に増加し、リングファイバーとよぶはちまき様の構造が観察できる。これは筋原線維の一部が筋鞘下で走行方向の異常を来すためにおきる。また type 1 fibre 萎縮がみられる。

MD type 2 (proximal myotonic myopathy)

DM1 と比較して発症年齢がやや遅く、先天性や若年性は見られない。Anticipation の傾向はあるといわれているが、めだたない。近位筋力低下優位でproximal myotonic myopathy(PROMM) とも呼ばれ、このためGMD などと誤診されやすい。また筋痛が起きやすい。筋強直現象は一般に弱く、みとめないこともあるが、筋電図では記録できる(Ricker 1994)。Type 1同様、心筋障害、心伝導異常、白内障、禿頭、および糖尿病など多臓器の異常が合併しやすい(Ricker 1995)。

遺伝学的には染色体3q21 のZNF9 (CNBP) 遺伝子の非翻訳領域にあるCCTG 反復配列の延長があり、これが転写されてできるmRNA のCCUG 反復配列が様々なタンパク生成にスプライシング異常を起こすと推定される(Raheem 2010)。

筋病理所見はMD1 と共通点が多いが、type 2 fiber atrophy をみとめることが多いと報告されている。

8.先天性筋ジストロフィー

これまでは出生時に症状が明瞭な筋ジストロフィーを先天性筋ジストロフィーと呼んできた。しかし、分子遺伝学的な知見が深まるとともに、先天性筋ジストロフィーと、生後一定期間をおいて発症する肢帯型筋ジストロフィーや先天性ミオパチーの境界は不明瞭になりつつある。現在なおこのカテゴリーを維持する意味は、頻度は少ないものの、筋症状が重篤であるだけでなく、しばしば中枢神経系や目の異常を伴うこの疾患群が、臨床的にきわめて重要であることであろう。以下に米国神経学アカデミー(AAN)の分類に基づいて述べる。

(1)コラーゲン異常症

筋線維間に存在する膠原線維は筋の機能発現のためには不可欠な存在と考えられている。その主な構成成分であるコラーゲンVI の変異により起きるCMD が重篤なウルリッチ型CMD と比較的軽症のベスレムミオパチー(Bethlem myopathy)である。両者はもともと別疾患と考えられていたが、両者の中間的な症状を示す例も存在し、同一遺伝子COL6A の異常による病態であることが明らかになった。ウルリッチ型CMD がAR とAD の遺伝形式をとるのに対し、ベスレム型はAD をとる。

ウルリッチ型CMD では生下時より下肢帯などの近位関節に拘縮がある一方、手指などには関節の過伸展がみられる。成長とともに筋力低下、脊柱側弯などが目立つようになり、呼吸不全となる例がある。また皮膚に瘢痕ができやすい。ベスレムミオパチーでは生下時の症状は足の変形や足関節拘縮、斜頚など軽症で、しかもその後一旦軽快することがある。しかし10 歳頃から足や肘関節などの拘縮と、近位筋を主とする筋力低下が出現しする。筋力低下は30 歳以降に進行が目立つようになり、60 歳頃には歩行困難となる例が多い。症状は個人差が大きく、一部の患者では軽度の呼吸不全が生ずる。

筋病理では両病型ともに非特異的なミオパチーの所見を示すが、ウルリッチ型では病初期にはtype 1 fiber atrophy とpredominance を示し、fiber type disproportion の状態を呈しやすいという報告がある(Schessl 2008)。ウルリッチ型の免疫組織化学では抗collagen VI 抗体に対する反応が消失するAR 例がある(Higuchi 2001)一方、AD の例では間質にcollagen VI は検出されるものの、二重染色法で正常対照のような筋線維基底膜との共存が見られない例がある(Pan 2003)。しかし、ベスレムミオパチーでは、この二重染色法でも判断が困難な例があるといわれている。

(2)メロシン欠損症とインテグリンα7 欠損症

メロシン欠損症は欧米に多いCMD で、臨床症状は生下時からの筋緊張低下、筋萎縮、関節拘縮、呼吸不全が見られるが、心筋障害や知能障害は原則としてみられない。

筋病理的にはジストロフィーに共通な変性・壊死と再生を伴うミオパチーの変化があり、間質の線維化が高度である。Type 1 fiber atrophy が見られやすい。免疫組織学的にはlaminin-α2(merosin)が筋細胞表面に欠損している(Tome 1994)。ただし、FCMD でも二次的な欠損が部分的に見られることがある。本邦では、α-dystroglycan とともに筋細胞のlaminin 受容体であるintegrinα7 の遺伝子異常においてCMD が発見されており(Hayashi 1998)、これについても免疫組織学的な検査が可能である。

(3)α-ジストログリカノパチー

骨格筋の収縮蛋白から筋細胞膜に連なり、筋を覆う基底膜にいたるジストロフィン軸の中で、α-ジストログリカンは特に基底膜を安定的に保持するために重要な役割を果たしている。その保持に重要な糖鎖部分の形成に異常が生じた場合、骨格筋の異常ばかりでなく中枢神経や眼の異常もともなう病態が発生する。この病態を総称してα-ジストログリカノパチーと呼んでいる。

i) 福山型先天性筋ジストロフィー

日本で診療の対象となる先天性筋ジストロフィーの大多数は福山型筋ジストロフィー(FCMD)である。生下時に筋萎縮、関節拘縮がみられ、中枢神経の発達異常による知能障害がみられ、生後さらに呼吸障害などの合併症が進行する。さらに眼球運動障害、皮質盲、網膜剥離など、視力に関する異常を呈する例が約半数ある。しかし、遺伝子診断の発達により、比較的症状が軽く進行が遅い例もあることが次第に認識されるようになり、このような例の診断も重要となっている。

常染色体性劣勢遺伝形式をとり、原因遺伝子は9q31 にあるフクチン(Fukutin) 遺伝子である。その3’領域のnoncoding region に3kb のretrotransposon の挿入がみられる例が多いが、その他の変異もある(Toda 1999)。フクチン蛋白の機能と局在は十分解明されていないが、細胞外に分泌され(Kobayashi 2001)、筋細胞膜と基底膜の結合を安定化する機能を持つと推定されている。

筋病理ではジストロフィーの所見である。免疫組織学的には基底膜の成分であるlaminin、なかでもlamininα2 の分布が不規則で断続的になり、全体量が減少する(Fig.25)。電顕では基底膜の連続性が失われ、欠損部位が広く観察できる。欠損部位の筋細胞膜が不明瞭になるなど変性がみられる(Matsubara 1999)。

Fig.25
筋細胞基底膜に結合するラミニンを染色すると正常では細胞全周に染まりますが、福山型では欠損部位が目立 ちます。
a:正常対照 ラミニン2、b:FCMD ラミニン2、c:FCMD ラミニン 5、d:FCMD Gomori trichrome、E:正常対照 ラミニン2 en face 像、 f:FCMD ラミニン2 en face 像、 g:FCMD ラミニン5 en face 像

ii) Muscle eye brain disease (MEB)

本症ははじめにフィンランドから報告されたCMD だが、糖鎖形成にかかわるglycosyltransferase であるprotein O-mannose β-1,2-N-acetylglucoseaminyltransferase 1 (POMGnT1) 遺伝子に種々の異常が見いだされた後、その臨床症状が多様であることと、日本を含む世界各地に患者が存在することが明らかになった(Taniguchi 2003)。大多数の例は生下時から筋緊張が低下し、臥床状態で、成長しても起立することは困難である。また視力障害が高度で知能発達も障害され、てんかん発作を有する例もある。目は高度の近視、視神経低形成や網膜の剥離や色素沈着がみられる。脳には小脳と大脳に形成異常がある。POMGnT1 活性の低下が報告されている。

筋病理はジストログリカノパチーに共通点が多く、免疫組織化学的なラミニンやαジストログリカンの局在については、抗体の認識部位による差があるなど鑑別には困難があるため、診断は遺伝子解析が必要である。

iii) Walker-Warburg syndrome (WWS)

脳回欠損症、水頭症、クモ膜嚢胞などの中枢神経形成異常にともなうCMD として報告されていたWWS と福山型CMD やMEB の異同について検討されてきた結果、WWS ではαジストログリカンに糖鎖形成に作動するprotein O-mannosyltransferase 1(POMT1) 遺伝子に異常を持つ家系が見いだされた。さらにその他にPOMT2, POMGnT1, Fukitin, FKRP, LARGE 遺伝子の変異例も発見され、その多様性が明らかになっている。しかし典型例とされる報告例に関する限り、中枢神経の異常は他疾患とは異なっていて、水頭症やクモ膜嚢胞など特徴的な変化が含まれている。筋病理についてはMEB と類似の所見である。

iV) その他

Fukutin related protein (FKRP) 遺伝子変異は肢帯型筋ジストロフィー、LGMD2I(既述)の原因となるが、CMD1C の原因でもある。FKRP はジストログリカンの糖鎖形成に関与すると推定され、ゴルジ装置に分布する。FKRP 遺伝子異常はときにMEB やWWSの表現型をとるなど、単一の遺伝子変異としてはきわめて多彩な症状を現す特徴がある。FKRP 遺伝子異常によるCMD とLGMD では、骨格筋症状とともに心筋や中枢神経の障害が起きうる。LGMD2I の筋病理ではジストロフィーの所見で特異性に乏しいが、免疫組織学的にはlaminin-α2 の染色性は不定だがα-dystroglycan の染色性の低下する例が多いと報告されている。

ヒトのLARGE 遺伝子は第22 染色体にあり、ヒトでは5 番目に大きな遺伝子である。LARGE蛋白にはα-glycosyltransferase の機能があると推定されている。マウスに自然発生した中枢神経異常を伴う筋ジストロフィーの一つにLARGE 遺伝子に欠失があるものがあることから、神経障害を伴うヒトCMD 遺伝子をスクリーニングした結果1 例が発見された(Longman 2003)。

(4)Rigid spine with muscular dystrophy と Multiminicore disease

脊椎強直(rigid spine) は特異的な症状ではないが、それを伴うCMD は従来よりDubowitz らにより一疾患として提唱されてきた。それをうらづけたのはselenoprotein 遺伝子に確認された変異(Moghadaszadeh 1998,1999) である。Selenoprotein は主に小児で骨格筋などの小胞体に分布する蛋白で、筋の成長発達に関与すると推定されている。生下時より筋の発達が悪く、rigid spine とともに脊柱側弯、亀背などがあり、重症例では呼吸不全が合併することがある。症例間で重症度に大きな差があり、他の遺伝的素因の関与も推定されている(Moghadaszadeh 1998)。

筋病理学的には非特異的なジストロフィーの変化と報告されているが、同じ遺伝子に変異を持つ例の中に筋線維の内部構築以上の一つであるmultiminicore やMallory body を呈するものが報告され、serenoprotein related myopathy という疾患群名も提唱されている(Ferreiro 2004)。

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