Orthomyxovirusであるインフルエンザウイルス感染に関連すると思われる筋炎の報告は小児が主だが、成人にもみとめられる。インフルエンザB がAより多い。病型はsporadic acute benign myositis の報告が多く、腓腹筋やヒラメ筋などの下腿後面の筋痛とそれによる起立歩行困難が主な症状である(Capoferri, 2018)。男児に多いという報告が多い。予後はよく、1週間ほどで回復する。大多数で血清CK活性は増加する。横紋筋融解を伴う例が報告されている。Mumps virus などのparamyxovirus 感染でも sporadic acute benign myositis の病型が見られる。
ヒトに炎症性筋症をおこしうるレトロウイルスにHIVとHTLV-1がある。
HIVにともなう筋病態は多彩である。HIV関連炎症性筋症には多発筋炎、封入体筋炎があるが、少数の壊死性筋症とネマリン・ミオパチーが知られている。さらに神経原性筋萎縮を伴うものがあり、その一部は運動ニューロン疾患様の症状を呈する。このほかミオグロビン血症や筋無力症状を示すもの、および悪液質、不動性筋萎縮があり。合併病態としてzidovudine(AZP) などの治療薬によるとされる筋症、および免疫不全症状としての一般細菌などによるレトロウイルス以外の感染性筋炎が知られている。
このうち多発筋炎と封入体筋炎は非感染性のものと筋病理学的に明らかな差異が見いだしがたい。免疫学的な解析でも、広範な筋線維膜上のMHC class I抗原の発現、非壊死筋線維へのCD8陽性T細胞の密着など多発筋炎と封入体筋炎でみられる所見が観察される。一方、HIVウイルスは in-situ hybridization では浸潤細胞には検出できるが、筋線維内には証明されていない。筋生検でPMの所見を示した症例の約半数が、約2年余の間に臨床的にも、また再筋生検でもIBMの所見を呈したとの報告(Landon-Cardinal ,2019)はPMとIBMの病態を考える上で重要である。
HTLV-1は成人型T細胞リンパ腫以外に熱帯性痙性対麻痺とHTLV1関連脊髄症(HAM)の原因であることが知られている。これらの病態と合併して、または単独に多発筋炎と封入体筋炎が発生することが日本の九州・沖縄やカリブ地方で報告され、これらの地域では多発筋炎の発生率がHTLV-1感染者で、非感染者より高いとされている。しかし、多発筋炎および封入体筋炎の筋病理学的には感染者と非感染者の間に明らかな差異は見いだされておらず、ウイルスの存在は浸潤細胞にみられるものの、筋線維内では証明されていない。
HIVおよびHTLV-1における多発筋炎と封入体筋炎の病態は、これらのウイルスによる感染性筋炎という視点にとどまらず、両筋炎の病因を知る上で重要な手がかりを与える可能性がある。
Coxackievirus をはじめとするエンテロウイルス感染に合併した筋炎の少数の報告がある。いずれも筋細胞内のウイルスは確認されていない。
C型肝炎ウイルスはフラビウイルス科のRNAウイルスで、肝炎以外に一部クリオグロブリン血症をともなう血管炎やニューロパチーを伴うことが知られているが、多発筋炎(Villanova , 2000)、皮膚筋炎、封入体筋炎(Warabi, 2004; Uruha, 2016)の合併が報告されている。しかし、筋細胞にウイルスが確認された例はない。