SRPは小胞体に分布し、蛋白の移送や分解過程に関与する多機能性蛋白である。このユビキタスな蛋白に対する抗体が筋炎の患者の4~8%の血清に検出され(Targoff, 1990, Suzuki,2008)、しばしば通常の免疫療法に反応が不十分なこと、筋病理学的には壊死線維が散在し、炎症細胞浸潤は弱く、筋細胞表面のMHC class I 抗原の aberrant expression は弱いか見られない例が多いことが明らかになった(Fig.48)。
Fig.48
抗 Signal recognition particle(SRP) 抗体陽性の患者に見られる壊死性筋症の筋生検像:壊死線維が単独または小グループで散在する。細胞浸潤は一般に無いか、あるとしても、弱い。また同様に MHC Class I抗原の aberrant expression も無いか、あるとしても弱い。
① HE、② TC、③ acid phosphatase、④ MHC class I 抗原。
膠原病や悪性腫瘍の併発例は少なく、血清CK活性は1000IUを超える高値を示すものが多い。一部に大量免疫グロブリン静注療法(IVIg) が奏功する例がある。
Hydroxymethylglutaryl-CoA reductase は小胞体の膜にあり膜貫通ドメインをもっているメバロン酸経路の律速酵素の一つで、コレステロール等の合成に重要な役割を担っている。HMGCRの阻害剤であるスタチンの副作用の一つとして筋障害が知られていたが、筋障害を起こす患者の中に休薬後も進行性経過をとる患者がおり(Needham, 2007)、さらにHMGCRに対する抗体を有する例があることが明らかになった(Mammen, 2011)。その後、スタチンの服薬歴のない患者で筋力低下や高CK血症を示す患者の中に抗HMGCR抗体が見いだされる例が見いだされるようになった( Mohassel, 2013)。いずれも筋病理学的には壊死性筋症で、炎症細胞浸潤は弱く、筋線維上のMHC class I 抗原のaberrant expression があるものが多いが、見られない例もある(Chung, 2015)(Fig.49)。また悪性腫瘍の合併例が多いと報告されている(Limaye, 2015; Tsujikawa, 2016)。
Fig.49
抗 HMG CoA reductase 抗体陽性壊死性筋症の生検像:細胞浸潤はほとんどなく、抗体が確認されるまでは、MHC class I抗原の異常発現を唯一の筋炎を疑う根拠としていた例。