ほとんどの正常・異常構造物はHE染色で観察することが可能であるが、鑑別診断に重要な構造物の一部は可視化できないので(下表参照)、他の特殊染色・免疫染色を要することに留意する。ヘマトキシリン液(カラッチ、マイヤー)によって好塩基性の様子は若干異なる。
KB染色は、ニッスル(Nissl)染色のクレシルバイオレットと、ルクソールファストブルー(Luxol fast blue)の2重染色。クレシルバイオレットは粗面小胞体(ニッスル小体)を青紫色に染める。ルクソールファストブルーは髄鞘を青色に染める。ルーペ像では、灰白質は薄く濁った青色に染まる。白質は鮮やかな青色に染まり、白質の脱落病変を検出することが容易となる。
ボディアン染色は使用する試薬が製造・販売中止なので、できなくなる日がやがて来るので、今後の対策を考えておく必要がある。メセナミン銀染色、ビルショウスキー平野変法、ホームズなどがあり、染色性が異なる。
ボディアン染色をはじめとする銀染色では、神経突起(軸索、樹状突起)の脱落、腫大性変化や発芽現象などが観察できるほか、線維成分の凝集体を検出することができる。銀染色の陽性像は、染めている構造の線維成分の密度により加減される。一般的に、ニューロフィラメントやpaired helical filamentのような構造が凝集したものが、より濃く染まる。
ガリアスも銀染色であるが、正常成分は染色せず、リン酸化タウの細胞内蓄積物質を黒く染める。一方、αシヌクレインが主たる構成成分である、多系統萎縮症(multiple sysytem atrophy)に特異的な構造物のグリア細胞質封入体(glial cytoplasmic inclusion)も明瞭に染める。ただし、αシヌクレインが構成蛋白であるレヴィ小体、レヴィ関連ニューライトは染めない(極めて薄い黒色を呈するが、この染色の陽性像とは位置づけない)。
ホルツァー染色はアストロサイトの突起内の線維成分を青紫色に染色する。正常アストロサイトでも突起内の線維成分が多ければ染めるが、一般的な用途は病変が古くなった際に形成される“瘢痕化”であるグリオーシスを染色する(下表の1)、2))。その他、神経皮膚症候群である結節性硬化症では皮質結節がグリオーシスを形成する(下表の3))。また、髄鞘の脱落がないにもかかわらず、グリオーシスが高度に形成されている状態をDissociation gliomyeliniqueと言う(下表の4))。形成機序は不明である。一方、これらグリオーシスの他、アストロサイトのfootに溜まるポリグルコサン小体である類でんぷん小体を明瞭に染めるが、本来の目的ではない副次的な染色像である。
ホルツァー染色では行程中に有害ガスが発生するためドラフト内で行う。グリオーシスを染色する代替えの染色としては、リンタングステン酸ヘマトキシリン染色(PTAH染色)があるが、あまり有用ではない。
代表的4染色による神経細胞、グリア細胞の実際の見え方を示す。神経細胞は形・大きさで識別は容易である。オリゴデンドログリアの核はリンパ球様の小さく濃染し、アストロサイトの核は比較的大きく明るいので識別できる。ボディアン染色では神経突起が染まり、KB染色(LFB染色)では神経突起の周囲の髄鞘が染色される。ホルツァー染色は正常組織では染まらない。