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ご挨拶

いにしえの貴重な書籍、絵画、資料などをデジタル化することにより、貴重な資産を後世へ継承し、教育や研修などに活用することが容易にできる時代になっています。そのような資産集合体はデジタルアーカイブと言われ、いわゆる文系、理系を問わず急速に普及し発展しています。本邦でも、「国立情報学研究所デジタルシルクドード」、「国立公文書館デジタルアーカイブ」、「東京都立図書館TOKYOアーカイブ」、「NHKアーカイブズ」など、デジタルアーカイブの具体例は、枚挙にいとまありません。

顕微鏡で観察するガラス標本(以下、標本)を1万人が別々の場所で観察するとなれば、1万枚の標本と1万台の顕微鏡が必要であり、また、1枚の標本を1台の顕微鏡で観察するとなれば、1万人が一同に会し行列を作ることになります。

最近では、標本もデジタル化の対象となり、近未来的には、顕微鏡を利用せずに標本を観察する時代がやってくることは自明です。病理ガラス標本をバーチャルスライド機器にてスキャンしてデジタル画像データを作成し、それらの画像をディスプレイに表示して病理標本を観察する技術的方法論のことをデジタルパソロジー(digital pathology)と言います。また、そのような画像データは、ホールスライドイメージ(whole slide image)とも言われています。つまり、ガラス標本からホールスライドイメージというデジタル画像が生まれ、モニターで観察することができる時代になっています。

さらに、ホールスライドイメージをウェブサーバに搭載し、インターネットを介して閲覧する仕組みを作ることにより、世界中、いつでもどこでも、貴重なガラス標本を閲覧することが可能になります。

わたしたちは、人の中枢神経系の正常像や病理像のデジタルアーカイブを作成し、インターネットで閲覧できる「東京都医学研・脳神経病理データベース」を運用しています。このシステムの作成者らに対しては、平成26年度に東京都医療福祉保健学会優秀賞、平成28年度に東京都職員表彰(知事表彰)が授与されました。また、平成29年には、本データベースは医学研の知的財産として認定されています。

本データベースは、ヒト中枢神経系の標本をバーチャルスライド機器にて高精度スキャンしたデジタル画像データを、インターネット接続可能なサーバに搭載することにより、世界中のパソコンから、あたかも顕微鏡観察をしているような、ユビキタスに閲覧する仕組みを可能にしました。バーチャルスライド技術と情報通信技術の両方の技術革新のメリットを最大限に生かし、デジタル標本アーカイブを作製したことによって、標本と人との時空間的な距離を格段に縮めることができました。都立病院を始めとする医療現場や、首都大東京や研究所などにおける教育・研究の場において、病態理解や診断精度向上、共同研究のシーズ創出に資する情報を提供しています。

また、本データベースには、

  1. デジタルデータのもとになるガラス標本の作成方法
  2. ガラス標本のもとになるブロックの作成法
  3. ブロックを作成するためのブレインカッティングの方法
などの情報も、網羅的に搭載しています。さらには、中枢神経系の様々な病変の見方などの解説も豊富に盛り込まれています。

今後、中枢神経系などの正常構造や疾病による病変に関する充実したデジタルアーカイブを完成させ、世界中からインターネットで閲覧できる仕組みを通して、標準化された病理診断法を確立し、どこでも誰でもが同じ診断を下せるような世界を創出することが、わたしたちの目指すところです。

2018年4月1日
神経病理解析室長 新井 信隆