これらのコンテンツは、必要とする専門家ユーザーに対してウェブ閲覧可能にすることにより、様々な研究・研修・医療の現場での学習効率の向上と、医療の地域間格差、病院間格差を是正するための均霑化サービスを確立させることが可能となります。
近年、高度な専門的技術や患者受診は一部の専門医療施設に集中し、病院ランキング、いわゆる“名医”などを紹介する情報がそれに拍車をかけています。特に脳神経系疾患では顕著であり、たとえば脳腫瘍ひとつとっても、脳腫瘍のタイプ別に専門病院が分化してしまっているのが現状であり、都市型の大規模総合病院であっても、脳腫瘍の全般的な医療供給、専門医研修、研究を行うことはかなり困難な状況です。従って、診断する専門家もなかなか育たず、診断精度の均てん化に大きな支障が全国的規模で生じています。つまり、医療の地域間格差、病院間格差が大きな社会問題となっているわけです。
例えば、臨床の専門医・認定医を取得したあと、それぞれの医師が辿るキャリアによって、一部の疾病に特化したスペシャリストになるか、守備範囲が広いジェネラリストになるか道が分かれます。一方、昨今の医療情報の普及により医療を受ける側も、専門性の高い医療機関を受信する傾向があり、一般病院と専門医療機関との医療供給の格差が増大しており、それにより、専門家が育たない悪循環に陥っているのが現実です。
必ずしも医療の世界だけのたとえ話ではありませんが、①アクセス、②クウォリティー、③コスト、つまり、①医療機関に通う便利さ、②受けられる医療の質、③支払う費用の3つのうち、2つは実現できても3つとも満たすことはできないという、いわゆる“オレゴンルール”と言われる不条理を、いかに合理的方法を開発して打開してゆくことができるのか? 研究成果をデジタル化し医療の標準化に資するデバイスなどの開発と応用が一層求められるのは、このような背景からの必然でもあり、都立病院等と連携する医学研のミッションでもあると考えています。
このことにさらに拍車をかけているのが、平成16年から順次導入されてきた高等教育のコアカリキュラム改変であり、医学教育においては、臨床教育重視により基礎的な教育環境の縮小が深刻です。医学研では、バーチャルスライドによるデジタルデータベースを様々な教育・研修に活用することで、社会貢献を果たしてゆきたいと考えています。さらに、東京医師アカデミーでの専門医教育におけるe-ラーニングの教材としての活用も提案してゆくところです。
都立病院や福祉保健局の事業所などとデジタルネットワークを構築し、疾病の正しい知識などを普及させることにより、都民の健康の増進、福祉の向上をさらに図ってゆきたいと考えています。また、神経疾患の難病ケア看護チームが取り組んでいる研究活動とも連携して、疾病の理解がさらに深まるようなシステムを提案してゆく予定です。