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2020/07/07

◎函館下宿物語(4)◎

| by patho

それでもたまに銭湯で風呂に入りたくなるわけだし、そんな帰り道、無性に食べたくなるのは、甘いものだった。若かったんだろう。エネルギー補給にはテットリ早いのがグルコースである。そのころの、甘いもの、と言えば、ファンタオレンジ、エクレア、そして大福、である。風呂上がりに飲んだ、微炭酸のファンタオレンジの美味しかったこと、いまも鮮明に覚えている。昨今のファンタとは、おそらく甘味料が違うのだろうが、舌を刺激する炭酸とあまいオレンジの香り。銭湯の想い出といえば、ファンタオレンジだ。

でも、ジュースだけでは腹に溜まらないわけで、エクレアか、大福が欲しくなるわけだ。その当時、大福は1個15円だった。千代台の路面電車の停車場の近くに和菓子屋があって、たまに買うことがあったが、ある日、どうしても大福が食べたいものの、手持ちの金がまったくなかったことがあった。そこで、その和菓子屋の向かいに古本屋があったので、下宿に一旦戻り、使っていない新品同然の参考書を何冊か持っていって、90円に換えたことを、まだ覚えている。おまけに、どこかで万引きしてきたか、学校で誰かのものを盗んできたんだろう、という目で私を舐め回した店主の親父の顔。結局、生徒手帳を出して、名前を控えられ、90円を貰ったわけだが、すぐさま、その足で和菓子屋に行って、大福6個を購入。消費税がない時代でよかった。

下宿に帰る道すがら、歩きながら1個食べ、2個食べ、3個食べ。数分後、下宿についた頃には残っていなかった。下宿の部屋の電気をつけて、薄暗く寒い部屋の中央に敷いてあった万年床に寝転がっていたら、遠い港の方から、ぼ〜、という汽笛。なんか無性にわびしくなって、布団を頭まで被った。美味しいもの、大切なものは、最後に取っておく、という根性は、あのときに刻印されたのかもしれない。


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