第6章 非遺伝性ミオパチー

感染性炎症性ミオパチー

1.寄生虫性筋炎

原虫類(protozoa)
トキソプラズマ
マラリア
条虫類(cestoda)
有鉤条虫(taenia solium) と嚢尾虫症(cysticercosis)
無鉤条虫(taenia saginata)
孤虫症 (sparganosis)
線虫類(nematode)
旋毛虫(trichinella spirasis)
蛔虫 (ascaris lumbricoides) と visceral larva migrans
鉤虫 (ancylostoma) とcutaneous larva migrans

(1)トキソプラズマ

Toxoplasma gondii に感染しシストや栄養型(タキゾイトとよばれる急増虫体)の虫体を含んだ、またはそれらに汚染された未調理の食肉、野生動物・ネコなどの家禽の糞便や体液が経口感染の原因となるが、感染した母体から胎児への経胎盤感染もある。終宿主であるネコの糞便にオーシストという有性生殖で形成された虫体が排出される時期がある。オーシストは糞便中に数ヶ月間生存するので注意が必要である。

骨格筋の感染が起きると、急性または亜急性の筋炎の症状をとるのが普通で、通常発熱やリンパ節腫脹を伴う。心筋など他臓器の症状にも注意が必要である。また皮疹を伴い皮膚筋炎との鑑別が必要な例もある。AIDS をはじめとする免疫不全状態では発生頻度が高まる。診断には病歴とともに血清学的検査が重要だが、骨格筋内にシストが見られることがある。間質の浸潤細胞は主にCD4+細胞とマクロファージで、非感染性の多発筋炎とは異なっていた(Matsubara 1990)。

(2)マラリア

かつては本邦でも三日熱マラリア原虫(p.vivax) を主とする感染例がみられたが、現在では専ら海外で感染した例に遭遇することがある。マラリア感染にともなう筋力低下や筋痛がまれではないと報告されているが(Miller 1988)、正確な筋炎の発生頻度は不明である。重症度は原虫の種類によるとの説があり、熱帯熱マラリア原虫(plasmodium falciparum) の感染では横紋筋融解などの重症例が報告されている(DeSilva 1988, Knochel 1993)。骨格筋障害の機序は不明だが、赤血球凝集の異常などによる虚血性の筋細胞壊死との説がある(Taylor 199*)。

(3)有鉤条虫と有鉤嚢虫症

ブタ肉などの中にいる有鉤嚢虫の摂取によるヒトへの感染が多い。その後成虫は小腸に寄生し、消化管症状、腹膜炎や貧血を起こす。ヒトが誤って虫卵に汚染された食物や患者の手などから虫卵を摂取すると、腸内で孵化し、腸壁に侵入、血流とリンパ流を介して体内の諸臓器に移行しそこで発育し有鉤嚢虫となる。脳や骨格筋、心筋などが多い。糞便検査、末梢血の好酸球増多の有無などのほか、血清学的検査がきわめて重要である。また病変部の特定にはCT、MRI、超音波などの画像検査が有用である。筋には嚢胞が見られ、周囲には炎症反応と圧迫された筋線維が観察される。

(4)孤虫症

擬葉類(裂頭条虫科)は二つの中間宿主を必要とし、第一中間宿主はミジンコなどの水棲生物、第二中間宿主は魚類、両棲類、爬虫類である。ヒトが裂頭条虫の幼虫(プロセルコイド)に感染したミジンコを摂取すると、幼虫は腸壁を穿通し、全身の皮下や筋に移行してさらに成長してプレロセルコイドとなる。第二中間宿主の肉を食した場合も感染する。経口以外に皮膚や傷口から感染する可能性も指摘されている。

(5)旋毛虫症

成虫は小腸に、幼虫は筋に寄生する線虫で、欧米では加熱不十分な豚肉などでの感染例がある。本邦では北海道などでの熊肉による感染例が少数報告されている。幼虫が筋に移行する時期に発熱と筋痛がみられる。

(6)蛔虫と幼線虫移行症

蛔虫の第二期幼虫を擁する虫卵が嚥下されると、腸管内で孵化した幼虫は腸壁を穿通し、腹腔に入り、肝臓や横隔膜を通過して胸腔内に至り、肺で発育する。一部は門脈を介するといわれている。その後気管から喉頭を経て、再び腸管に至って成虫となる。腸管内で産卵された虫卵は、普通、素なまま排出されるが、腸に潰瘍などがあると血行性に肝や脾、その他の臓器に移行し、肉芽腫性病変を形成する。筋においても病変が形成される。このとき発熱と筋痛を伴う。幼線虫は20~400μm の大きさで肉芽腫を形成し、リンパ球と組織球の浸潤を伴う。

(7)鉤虫症

我が国ではズビニ鉤虫とアメリカ鉤虫が存在する。形態は似ているが、後者はやや小さく東部の形態に差異がある。いずれも幼虫の経皮と経口感染があるが、ズビニ鉤虫は経口、アメリカ鉤虫は経皮感染が多いといわれている。また両者とも感染後肺臓に移動し、再び小腸に達し、粘膜に咬着する。感染が続くと貧血が起きるが、ほとんど無症状で持続感染する例もある。筋では幼虫が見られ、周囲に炎症と変性した筋線維が見られたと報告されている。

2.細菌性および真菌性筋炎

一般細菌による筋炎は皮膚などの組織からの波及や外傷に起因するものを含めるとまれではない。とくに免疫不全状態では発生しやすく、かつ回復も遅れがちである。起因菌は、黄色ブドウ球菌、A 群溶連菌、大腸菌など一般的なものが頻度として多く、通常は重篤な状態に陥ることはまれである。しかし、一部にはクロストリジウムによるガス壊疽や、非クロストリジウム性ガス壊疽のように、急速に発症し重篤化するものがあり、警戒を要する。マイコプラズマ感染では筋をふくめ同時に多臓器に感染が波及することがある。局所の発赤、変色、腫脹、疼痛や触診所見などの局所症状とともに、発熱などの全身状態にも注目し、早期に病態を把握して対応することが望ましい。

真菌による筋炎は免疫不全状態でおきることが多く、クリプトコッカス、カンジダ、アスペルギルスなどの感染が多く、全身の真菌感染症の一部であることが殆どである。

3.ウイルス性筋炎

(1)Mixovirus と paramyxovirus 性筋炎

Orthomyxovirus であるインフルエンザウイルス感染に関連すると思われる筋炎の報告例は小児が主だが、成人にもある。ほとんどがインフルエンザA またはB 感染であるが、benign acute childhood myositis の報告が多く、腓腹筋やヒラメ筋などの下腿後面の筋痛とそれによる起立歩行困難が主な症状である。男児に多いという報告がある。普通予後はよく、1 週間ほどで回復する。しかし、高齢者の例や、横紋筋融解を伴う例が報告されている。Mumps virus などのparamyxovirus 感染でも筋炎や心筋炎の合併報告がある。

(2)レトロウイルス性筋炎

ヒトに炎症性筋症をおこしうるレトロウイルスにHIV とHTLV-1 があるが、いずれについて も病態に不明な点が残っている。

i)HIV (human immunodeficiency virus) 関連炎症性筋症その他の筋病態

HIV にともなう筋病態は多彩である。HIV 関連炎症性筋症には多発筋炎、封入体筋炎があるが、少数の壊死性筋症とネマリン・ミオパチーが知られている。さらに神経原性筋萎縮を伴うものがあり、その一部は運動ニューロン疾患様の症状を呈する。このほかミオグロビン血症や筋無力症状を示すもの、および悪液質、不動性筋萎縮があり。合併病態としてzidovudine (AZP) などの治療薬によるとされる筋症、および免疫不全症状としての一般細菌などによるレトロウイルス以外の感染性筋炎が知られている。

このうち多発筋炎と封入体筋炎は非感染性のものと筋病理学的に明らかな差異が見いだしがたい。免疫学的な解析でも、広範な筋線維膜上のMHC class I 抗原の発現、非壊死筋線維へのCD8 陽性T 細胞の密着など多発筋炎と封入体筋炎でみられる所見が観察される。一方、HIV ウイルスはin-situ hybridization で炎症性浸潤細胞には検出できるが、筋線維内には証明されていない。

ii)HTLV-1 (human T-cell leukemia virus type 1) 関連炎症性筋症

HTLV-1 は成人型T 細胞リンパ腫以外に熱帯性痙性対麻痺とHTLV-1 関連脊髄症(HAM)の原因であることが知られている。これらの病態と合併して、または単独に多発筋炎と封入体筋炎が発生することが日本の九州・沖縄やカリブ地方で報告され、これらの地域では多発筋炎の発生率がHTLV-1 感染者で、非感染者より高いとされている。しかし、多発筋炎および封入体筋炎の筋病理学的には感染者と非感染者の間に明らかな差異は見いだされておらず、ウイルスの存在は浸潤細胞にみられるものの、筋線維内では証明されていない。

HIV およびHTLV-1 における多発筋炎と封入体筋炎の病態は、これらのウイルスによる感染性筋炎という視点にとどまらず、両筋炎の病因を知る上で重要な手がかりを与える可能性がある。

(3)その他のウイルス性筋炎

少数のCoxsackievirus をはじめとするエンテロウイルス感染に合併した筋炎の報告がある。いずれも筋細胞内のウイルスは確認されていない。

C 型肝炎ウイルスはフラビウイルス科のRNA ウイルスで、肝炎以外に一部クリオグロブリン血症をともなう血管炎やニューロパチーを伴うことが知られているが、筋炎(多発筋炎(Villanova 2000)、皮膚筋炎、封入体筋炎(Warabi 2004, Uruha 2016)の合併が報告されている。しかし、筋細胞にウイルスが確認された例はない。

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