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脳腫瘍

非神経上皮腫瘍

末梢神経腫瘍

脳神経と脊髄神経に発生する末梢神経腫瘍は、下垂体腺腫を除くと成人では3番目に多い脳腫瘍である。その大部分が良性のシュワン細胞腫である。

シュワン細胞腫(schwannoma):WHO Grade I

良く分化したシュワン細胞からなる良性の腫瘍で、神経鞘腫(neurinoma)とも呼ばれる。中高年に多い。頭蓋内では第8神経の前庭枝に好発する(聴神経鞘腫acoustic neurinoma)。通常は被膜が有り、割面は淡い茶褐色調を呈し、しばしば嚢胞や出血を伴う。腫瘍は先細り状の核を有する細長い双極細胞が束状に配列し、細胞が密に配列する部分をAntoni A領域、水腫状の背景を有する疎な部分をAntoni B領域と呼ぶ。Antoni A領域の部分では核の柵状配列(palisading)を認めることがあり、紡錘形の核が縞状に配列し、あたかも球状構造のように見える状態をVerocay bodyと呼ぶ。Antoni A領域とB領域は常に同一の腫瘍内に存在するとは限らない。聴神経鞘腫ではVerocay bodyは稀である。また、核異型、血管壁の肥厚、ヘモジデリンの沈着、マクロファージの集簇などの変性所見が顕著なことが少なくない。これらは悪性度には無関係である。免疫染色ではS-100蛋白がびまん性に強陽性で,GFAPは一般には陰性である。

小脳橋角部のシュワン細胞腫では鑑別診断が重要である。Antoni A領域はしばしば線維性髄膜腫や孤発性線維性腫瘍とよく似た所見を示す。髄膜腫はvimentin、EMAが陽性であり、S-100蛋白は通常は陰性で、シュワン細胞腫のように強陽性を示すことはない。孤発性線維性腫瘍はEMA陰性であるが、S-100蛋白は陰性、CD34陽性で鑑別する。小脳橋角部には稀に線維性の間葉系悪性腫瘍が発生することがあるが、シュワン細胞腫が悪性化することはほとんどない。

亜型:細胞性シュワン細胞腫(cellular schwannoma)

細胞密度が高く、ほとんどがAntoni A領域からなり、クロマチンの増量、核異型、核分裂像を認めるなど組織学的には悪性所見を呈する。しかし、再発することはあっても周辺組織への浸潤や転移はみられず、生物学的には良性病変であるので、注意を要する腫瘍である。

悪性末梢神経鞘腫(malignant peripheral nerve sheath tumor、MPNST):WHO Grade III/IV

末梢神経から発生する神経鞘への分化を示す悪性腫瘍である。約半数がNF1に発生するが、de novoに発生するものもある。軟部組織あるいは傍脊柱領域に発生し、脳神経では極めて稀である。聴神経よりも三叉神経に多いとされる。豊富な好酸性胞体とクロマチンに富んだ核を有する紡錘形細胞が束状に配列する線維肉腫様を呈し、細胞密度が疎な部分と密な部分が交代性に配列する。地図上壊死、細胞分裂像が目立つ。

髄膜由来の腫瘍

髄膜由来の間葉系腫瘍は髄膜を構成する髄膜皮細胞(meningothelial cell)から発生する髄膜腫とその他の間葉系腫瘍に大別する。中枢神経系の間葉系腫瘍の分類は基本的に骨軟部腫瘍の分類に準ずる。代表的な組織型として脂肪性、線維性、線維性組織球性、筋性,骨軟骨性、血管性などがある。髄膜腫が成人の脳腫瘍の中で最も頻度が高いのに比べて、その他の間葉系腫瘍の頻度は極めて低い。そこで、本稿では髄膜腫と鑑別を要する髄膜から発生する間葉系腫瘍についてのみ取り上げる。

髄膜腫

成人女性に多く、小児には少ない。原則として硬膜に付着し、円蓋部、傍矢状部、蝶形骨縁、大脳鎌、小脳テントなどに好発する。髄膜腫は多彩な組織所見を示し、その大部分は良性(WHO grade I)で亜型間の予後に差はない。一部に再発を繰りかえし、侵襲性の強い中間異型度髄膜腫(WHO grade II)と高異型度髄膜腫(WHO grade III)がある。

髄膜腫の悪性度分類は二つの評価尺度を並立させている点で分かりにくい。第1の尺度は、組織型そのものに悪性度を対応させる手法で、例えば明細胞髄膜腫は中間異型度に、乳頭状髄膜腫は高異型度に分離される。第2の尺度は、組織型を問わず、組織学的な悪性所見、例えば細胞分裂像や細胞密度などの程度に応じて異型度を判定する方法である。

免疫組織化学的に特異的な抗原はない。間葉系腫瘍であるのでvimentinは原則として陽性であり、これにEMAが検出されると診断価値が高い。S-100蛋白は線維性髄膜腫などの一部の症例で陽性となり、硝子様封入体はcytokeratin陽性となる。

組織型による分類

低異性度髄膜腫:WHO Grade I

基本的な組織型は、髄膜皮性髄膜腫(meningothelial meningioma)と線維性髄膜腫(fibrous meningioma)である。前者は合胞細胞性髄膜腫(syncytial meningioma)とも呼ばれるように、腫細胞境界が不明瞭な分葉状あるいは胞巣状構造を示す。腫瘍細胞は類円形の明るい核を有し、核小体は目立たず、核に空胞状の封入体がしばしば見られる。線維性髄膜腫は束状に増勢する細長い紡錘形細胞からなり、間質の膠原線維を伴う。両者の移行型を移行性髄膜腫(transitional meningioma)と呼び、この三者の頻度が最も高い。渦巻き形成(whorl formation)と砂粒体(psammoma body)は髄膜腫に特徴的な所見である。

中間異型度髄膜腫:WHO Grade II

この群には、共に稀な明細胞髄膜腫(clear cell menigioma)、脊索腫様髄膜腫(chordoid meningioma)がある。明細胞髄膜腫は後頭蓋窩と脊髄に発生する。明細胞はグリコーゲンの貯留によるもので、間質の硝子化が顕著であることがある。脊索腫様髄膜腫は粘液基質を背景に脊索腫様の索状構造をとる亜型である。発生部位あるいは脊索腫ではcytokeratinやS-100蛋白が強陽性であることを参考に鑑別する。

高異型度髄膜腫:WHO Grade III

この群には乳頭状髄膜腫(papillary meningioma)とラブドイド髄膜腫(rhabdoid meningioma)が含まれる。乳頭状とは血管を軸に腫瘍細胞が増勢する真の乳頭ではなく、血管周囲に腫瘍細胞が接合性が失われ結果、血管周囲に配列した偽乳頭を指す。ラブドイド細胞とは核が偏在し、細胞質内に好酸性の封入体を有する細胞を指すが、変性または人工変化で細胞質全体が好酸性を呈することも稀ではなく、vimentin陽性の封入体を確認する必要がある。

組織学的悪性度による分類

中間異型度髄膜腫:WHO Grade II
異型性髄膜腫(atypical meningioma)

核分裂像が強拡10視野あたり4個以上ある腫瘍、または以下の5項目の所見うち項目以上が認められる場合を指す;細胞密度の増加、N/C比の高い小型細胞、明瞭な核小体、組織パターンを喪失したシート状配列、壊死巣。

脳内浸潤:腫瘍組織が軟膜の介在なく舌状あるいは胞巣状に脳実質に入り込み、周囲にグリオーシスが見られる場合には脳浸潤と判定する。これは組織型を問わず中間異型度と判断される。髄膜あるいは骨浸潤は悪性度に影響しない。なお、転移は悪性腫瘍の特徴であるが、髄膜腫では異型性を問わず転移することがある。特に術後に多いとされている。

高異型度髄膜腫:WHO Grade III
退形成性髄膜腫(anaplastic meningioma)

一部に渦紋形成などの髄膜腫としての所見を残しながら、肉腫様の顕著な退形成性を示す例が相当する。核分裂像が強拡10視野あたり20個以上を一つの目安とするが、異型性髄膜腫との境界は必ずしも明瞭ではない。Ki-67陽性率はおおむね10%以上とされる。髄膜腫の所見がない場合には肉腫として扱うが、髄膜腫の既往がある再発例では髄膜腫の所見がなくとも退形成性髄膜腫とする。

鑑別を要する髄膜から発生する間葉系腫瘍

主に髄膜から発生し、髄膜腫との鑑別が必要性である腫瘍には、血管周皮腫と孤発性線維性腫瘍がある。軟部組織の分類では、この両者は既に同一の腫瘍と見なされ併記されているが、中枢神経系では予後の違いから両者を便宜的に分けている。

血管周皮腫(hemangiopericytoma、HPC)・孤発性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor、SFT)

HPCは肉眼的には髄膜腫によく似た境界明瞭で充実性の腫瘍で、極めて易出血性である。基本的には悪性の性格を有し、局所浸潤、遠隔転移、再発をきたす(WHO Grade II/III)。成人男性にやや多い。組織学的には細長い類円型核を有し、N/C比が高い高細胞密度の腫瘍で、鹿の角状(staghorn appearance)と呼ばれる枝分かれする血管腔が特徴的とされる。鍍銀染色では細胞間に繊細な好銀縁維網がみられる。SFTの肉眼所見も髄膜腫によく似ている。一般に予後良好とされるが、一部に再発や浸潤を来す例もある。組織学的には線推芽細胞様の紡錘形細胞が間質に膠原線維を伴いながら束状に増殖している像を示す。血管腔は存在するが、目立たない。両者共にEMA陰性であることから髄膜腫と鑑別される。CD34はSFTでは原則全例陽性であるのに対し、HPCでは報告により差がある。HPCでは核分裂像や壊死は、しばしば観察される。

組織起源が不明な腫瘍(血管系腫瘍)

我が国の取り扱い規約では、『血管系腫瘍』の項を設けている。『血管系腫瘍』とは血管由来を意味しない。発生母地は不明であるが、血管が目立つために便宜的にこの群に分類されている。この群で重要なものは血管芽腫と血管周皮腫である。血管周皮腫は髄膜腫の鑑別の項で述べた。

血管芽腫(hemangioblastoma):WHO Grade I

約1/4がVHL遺伝子の異常を伴うVon Hippel−Lindau(VHL)病の部分症としてみられる良性腫瘍である。成人の小脳、次いで延髄や頚髄上部に発生する比較的頻度の高い腫瘍である。しばしば嚢胞の形成を伴う。テント上は極めて稀でVonHippel−Lindau病患者のみに発生する。組織学的には著明な毛細血管網があり、血管の間に小型の円形核と幅の広い泡沫状の細胞質をもつstromal cellと呼ばれる細胞が密に増勢している点が特徴的である。血管壁は圧排されて不明瞭となる。血管周囲には鍍銀染色陽性の豊富な基底膜がみられる。Stromal cellが目立つ場合をcellular variant、毛細血管が目立つ場合をreticular variantと呼ぶ。Stromal cellはvimentin陽性となるが、特異的な抗原はなく、GFAPは陰性である。

造血器腫瘍

中枢神経系に原発する悪性リンパ腫は、大部分がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBC)である。特殊型として血管内悪性リンパ腫があるが、これもDLBCである。稀に髄膜にMALT typeのB細胞リンパ腫が発生する。中枢神経系にも稀にリンパ腫様肉芽腫症(LYG)が発生することがあるが、核異型が乏しく、EBウイルス陰性のLYG様病変に遭遇することも少ない。成人の組織球症としてはロザイ・ドルフマン病があるが、硬膜に発生することが多く、臨床的には髄膜腫との鑑別が問題となる。

悪性リンパ腫(primary CNS lymphoma, PCNSL)

高齢者に多く、大脳半球白質、特に前頭葉が好発部位である。結節性または浸潤性腫瘤を形成し、多発性であることも少なくない。組織学的には血管指向性(angiocentric)が強く、レチクリン染色で血管壁の好銀線推が腫瘍細胞によって同心円状に解離している像が特徴的で、浸潤部の周囲には反応性星細胞の増勢が著しい。膠芽腫に比べると壊死巣が少なく、アポトーシスが目立つ。CD20、CD79a、Bcl-6などが陽性となる。血管内B細胞リンパ腫では髄膜血管が好んで侵され、小梗塞や不全軟化を来す。限られた血管内にのみ腫瘍細胞がみられることも稀ではない。原発生悪性リンパ腫が脳実質から発生するのに対し、2次性悪性リンパ腫は、馬尾、脊髄根、脳神経などに沿って脳内に浸潤する。いずれの型でも、くも膜下腔への浸潤傾向が著しい。