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蛋白コンフォメーション異常症
代表的な異常蓄積蛋白

神経変性疾患の多くは、最近の分子生物学的・神経生化学的な研究の結果、蛋白の構造(コンフォメーション)の異常が発症メカニズムに起因していることが明らかとなっています。いわゆる認知症は認知機能に代表される高次脳機能障害の臨床像の総称であり、そのような症状を示してくる疾患は多岐に渡ります。

異常蓄積蛋白の種類は様々ですが、頻度が高い代表的な蛋白は、アミロイド、リン酸化タウ、リン酸化αシヌクレインの3種類です。

アミロイド沈着の形態は“老人斑(senile plaque)あるいはアミロイド斑(amyloid plaque)”と言われるものであり、これは主に大脳皮質の神経細胞周囲の基質にアミロイド線維が集積したものです。アミロイドが血管壁に沈着した病態はアミロイド血管症と言い、脳の循環障害・出血などを起こします。

リン酸化タウ沈着の代表は神経原線維変化(neurofibrillary tangle; NFT)と呼ばれるもので、神経細胞の内部にpaired helical filament (PHF)という線維成分が凝集した構造物です。神経細胞の内部の他、神経突起(樹状突起や軸索)にリン酸化タウが蓄積したものはニューロピルスレッド(neuropil thread)と言われます。老人斑と神経原線維変化は正常加齢でも脳内に沈着してきますが、高度に沈着し高次脳機能障害が生じる代表がアルツハイマー病です。また、21番染色体異常のダウン症候群では、加齢にともなってアルツハイマー病と同様の脳病変や症状を呈してくることはよく知られています。加えて、いわゆるボクサー脳症と言われるような、反復性の頭部への外力が繰り返された場合にも同様のことが惹起されます。

その他、ピック球と呼ばれるリン酸化タウの球状構造物が形成されるピック病や、神経突起に穀物状(小さなツブ状)の塊が形成されるグレイン認知症というような認知症のタイプがあります。

神経細胞だけでなくグリア細胞内にも蓄積することがあります。オリゴデンドログリアの細胞体および突起にリン酸化タウが蓄積したものをグリアコイル小体(glial coiled body)といいます。アストロサイトの主に突起に沈着したものには、房状アストロサイト(tufted astrocyte)とアストロサイト斑(astrocytic plaque)があり、前者は進行性核上性麻痺、後者は皮質基底核変性症の病理診断上の指標ともなっています。

神経細胞内でのリン酸化αシヌクレイン蓄積の代表はレビー小体であり、神経細胞内に球状〜楕円形の塊を形成します。神経突起に細長く蓄積したものをレビーニューライト(Lewy neuritis)と言います。いずれも正常加齢で脳内に形成されてきますが、高度になりパーキンソン症状や認知症を発症した場合、パーキンソン病やレビー小体型認知症と診断されます。

一方、リン酸化αシヌクレインはグリア細胞にも蓄積します。その代表がオリゴデンドログリアの細胞質に蓄積したグリア細胞質内封入体(glial cytoplasmic inclusion)で、多系統萎縮症(multiple system atrophy)で必発する病理診断上、必須の病理所見です。前段の疾患と併せて、シヌクレイノパチーという概念で包括されています。

遺伝子の塩基配列のうちCAGなどの3塩基単位(トリプレット)が過剰に繰り返される状態を過伸長といい、そのような変化が発症に関与していると考えられている疾患があります。CAGの過伸長によって産生される遺伝子産物(蛋白)がポリグルタミンであり、神経細胞の核内に小さな封入体を形成します。これらはハンチントン病(Huntington’s disease)、脊髄小脳失調症(spinocerebellar ataxia)、歯状核赤核ルイ体萎縮症(dentatorubropallidoluysial atrophy)などで認められます。これらはポリグルタミン病、あるいは、トリプレットリピート病と包括されます。

その他、最近ではTDP-43という蛋白が蓄積する脳の細胞病理像が知られており、運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)や一部の前頭側頭葉変性症において、主に神経細胞に蓄積が認められています。これらはTDP-43プロテイノパチーと現時点では括られています。

FUSという新規蛋白が脳に沈着している疾患群も明らかになりつつありますが、これらが一つの共通した機序による疾患カテゴリーを形成してゆくのか、今後の研究の推移を見極めてゆくことが求められる段階です。

前出したリン酸化タウ、リン酸化αシヌクレイン、ポリグルタミン、TDP-43、FUSという蛋白はいずれもユビキチン化により分解される“ユビキチンの標的蛋白”ですが、標的になる蛋白が何であるのか解明されていない“不明”な蛋白もあり、これから新規に解明されてくるはずです。

プリオンという蛋白も構造が変化することによって異常プリオンとなり、脳に沈着して神経細胞が破壊される疾病がいわゆるプリオン病です。それには孤発性、遺伝性、医原性などの背景を有するいくつかのフェノタイプが明らかになっています。