HOME脳神経疾患の病理 > 神経病理各論:神経感染症
神経病理各論:神経感染症

ウイルス性

主なウイルス性神経感染症

カンジダ症(candidiasis)

  1. 単純ヘルペス脳炎(単純ヘルペス1型、脊髄炎、ベル麻痺も)
  2. 水痘-帯状疱疹ウイルス脳炎(血管炎、ハント症候群も)
  3. サイトメガロウイルス脳炎(脳室炎も)
  4. エプスタイン・バーウイルス脳炎
  5. ヒトヘルペスウイルス6型脳炎
  6. 進行性多巣性白質脳炎(JCウイルス)
  7. インフルエンザ脳症
  8. 日本脳炎(アルボウイルス脳炎のひとつ)
  9. エイズ脳症(ヒト免疫不全ウイルス)
  10. ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV-1)脊髄症(HAM)
  11. 灰白脊髄炎(ポリオ脊髄炎)
  12. 亜急性硬化性汎脳炎(麻疹ウイルス)
  13. モラレ髄膜炎(単純ヘルペス2型)
  14. 狂犬病
  15. 急性散在性脳脊髄炎(感染後or傍感染性神経障害)

赤字は細胞質内、核内封入体を認めるもの

封入体を形成するウイルスと主な標的細胞

単純ヘルペス脳炎:herpes simplex encephalitis

1型ウイルス(口部ヘルペス)による脳炎である。発熱、意識障害、髄膜刺激症状などの脳炎症状を起こし、脳浮腫により死亡率も高い。側頭葉、大脳辺縁系が好発部位であり、死を免れた場合でも、後遺症として重篤な記憶障害、コルサコフ症候群などの側頭葉症状が前景に出る。

側頭葉、大脳辺縁系に出血壊死を起こす。神経細胞にはカウドリーA型(Cowdry A)のウイルス封入体が形成される。封入体は好酸性で核縁近くはやや白っぽくなっている。神経細胞以外にも、アストロサイト、オリゴデンドログリアの核にも封入体が観察することができる。

側頭葉の出血性病変

日本脳炎:Japanese encephalitis

トガウイルス群フラビウイルスに属する日本脳炎ウイルスによる。日本では夏季に発生する。節足動物であるコガタアカイエカが媒介する。吸血宿主はブタである。

東西南北へ感染者の発生地域は拡大している。発熱、意識障害、髄膜刺激症状などを呈する。致死率も高い。大脳皮質の他に視床、黒質を好んで侵すのが特徴である。従って、後遺症では固縮、振戦などを呈する。その他、小脳、脊髄も障害されることがある。

サイトメガロウイルス感染症:cytomegalovirus infection

サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)による脳炎には2つの種類がある。

  1. 子宮内で胎児に感染する先天性のサイトメガロウイルス感染症であり、致死的になるか、あるいは死に至らずとも胎児脳は小頭症になる。脳内には感染の陳旧病変として石灰化が生じる。大脳皮質では脳形成時、特に神経細胞遊走時の障害の結果である多小脳回を認める。
  2. 成人期においけるサイトメガロウイルス感染は悪性腫瘍、慢性炎症、エイズを始めとする消耗性疾患に伴って発生することが多く、いわゆる日和見感染(opportunistic infection)である。この場合、サイトメガロウイルスは神経細胞、アストロサイト、上衣細胞の核に感染し、核小体より大きなサイズの特徴的な核内封入体を形成する。

狂犬病(邦語)Rabies (英語)Rage(フランス語)Tollvut(ドイツ語)

→Rabies(ラテン語、狂気) Rabhas(サンスクリット語、暴力)から派生

  1. 2005年 狂犬病による死亡者 55000人(WHO)
  2. 99%がアジア、アフリカで発生(インドで年間約2万人死亡)
  3. 中国で増加傾向(2005年で2500人死亡)
  4. アジア・アフリカではイヌ、その他ではコウモリ、キツネ等がヒトへの感染の原因動物
  5. 農村部および都市周辺部に多く発生
  6. 日本では17世紀ころ長崎に侵入、20世紀中頃まで常在
  7. 1885年 弱毒狂犬病ワクチン開発(ルイパスツール)
  8. 1903年 神経細胞内にネグリ小体(Dr.Negri)
  9. 1950年 狂犬病予防法
  10. 1954年以降は国内での事故による患者発生なし(日本)
  11. 1970年 ネパールから輸入感染例(1例)
  12. 2006年 フィリピンから輸入感染例(2例)

ヒト狂犬病の臨床像

  1. リッサウイルスによる感染と同様
  2. 咬傷部位からウイルスが侵入し末梢神経から中枢神経系へ逆行移動
  3. 霧状の唾液の吸入でも感染することがある
  4. 角膜移植、硬膜移植、臓器移植による医原病の症例もある
  5. 非特異的脳炎症状に加え、幻視、興奮、躁状態、呼吸困難、嚥下困難をともない、恐水症、恐風症が出現。腱反射亢進、瞳孔反射亢進。(→狂躁型狂犬病
  6. 最初から麻痺症状を呈し、ギランバレー症候群様になる場合もある。(→麻痺型狂犬病
  7. 致死的。極めて稀に暴露後治療で死を回避した報告もあり。
  8. 髄液や角膜スメアなど生体由来検体でウイルス抗原を検出。
  9. 抗N抗体を用いた蛍光抗体法、RT-PCR法でのウイルスゲノムの検出などで確定診断。
  10. 脳組織でネグリ小体(Negri body)を確認。