HOME脳神経疾患の病理 > てんかん
てんかん

てんかんの種類

てんかんとは?

「てんかん」とは、大脳の神経細胞(ニューロン)の過剰な活動によって引き起こされる反復性の発作が生じる疾患の総称で、脳波検査ではそのような過剰活動が検出されるものをいいます。
神経学の歴史を紹介したMcHenry Jr.博士の著書によると、「てんかん」の歴史は古代ギリシャの医師ヒポクラテスの著作にまで遡るものであり、その後、いつの時代の医学論文にも「てんかん」についての記述があります。シェークスピアのオセロの第4幕にも、将軍がてんかん発作を起こした、という症状を詳しく述べた台詞があります。

一方、「てんかん」の原因については不確かな諸説があったものの、本質的なことは闇の中でした。その後、19世紀中ごろ、ジャクソン(Hughlings Jackson)博士の「大脳の神経細胞の過剰なエネルギー発射によっててんかん発作は発生する」という考え方が、てんかん研究の一大転換期を迎えるエポックとなりました。運動を司る大脳の一部が過剰に興奮することによって手や足が痙攣し、次第に全身の痙攣に発展してゆく発作タイプを、彼の名をとってジャクソン発作(Jacksonian March)と言っています。

また、20世紀中ごろには、脳外科医のペンフィールド(Wilder Penfield)博士が、手、足、顔などの体の各部位の運動や皮膚感覚を司る大脳の場所(中枢局在)をイラストで発表し、発作のタイプによって、大脳のどの場所が過剰に興奮しているのかをはじめて明らかにしました。非常に難治性であり手術が必要な場合は、脳外科治療が行われますが、日本のてんかん治療を専門とする脳外科医らが集う会は、彼の名を冠しペンフィールド記念懇話会として始まり、現在は日本てんかん外科学会となって発展しています。

因に、「てんかん」という日本の言葉は中国医学の用語の一つであり、19世紀のイギリス人医師で、てんかんを研究していたモーズレー(Henry Maudsley)博士が著した書物を、明治初期に日本語に訳した出版本の中にはじめて記載されたといいます。現在でも、ロンドンの南部にはモーズレー病院があり、てんかんに対する外科治療の20世紀の先駆けとなりました。

現在、てんかんの患者人口は約100人にひとり、といわれており決して稀な病気ではありません。多くは薬物療法や発達の過程でコントロールが良好になり軽快してゆきますが、しばしば薬物治療に抵抗性の難治性てんかんになってしまう場合もあります。特に就学や就労に際して困難が生じることも多く、てんかんの克服は切実な医療的な研究課題です。神経研のてんかん研究グループでは、隣接する東京都立神経病院のてんかん専門の脳外科医はじめ臨床各科と共同で様々な研究を行っており、日本てんかん学会や日本てんかん外科学会などで、講演活動やシンポジウム発表などを多数行ってきています。

てんかんの種類(分類)

発作型や原因などは非常に複雑で様々な視点から分類法が提案されています。代表的なものとして、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy; ILAE)が提唱した、(1)さまざまな発作のタイプ(症状)を基にしたてんかん発作型分類(1981年)と、(2)発作を引き起こす過剰な脳活動の範囲やその背景に潜む原因などを基にしたてんかんとてんかん症候群分類(1989)があります。

2001年には、ILAEの分類・用語作業部会から新しい分類法が提案されていますが、やや複雑であり、こちらはまだ一般的なコンセンサスが得られるには至っていません。
一方、てんかんを伴う様々な疾病(あるいは症候群)の中には、最近の分子遺伝学的な研究から、ヒトてんかん原因遺伝子と染色体座が解明されてきているものも多くあり、それを基盤にてんかんを分類する流れもあります。
以下、多視点からのてんかんの分類を概説してみます。

(1)てんかん発作型分類(1981, ILAE)

てんかん発作は部分発作全般発作に大きく分類されます。
部分発作は大脳皮質(表面)に発生した焦点部(発作を起こさせる病変)が引き起こす発作です。このうち、発作時に意識障害がない場合は、単純部分発作といい、意識障害を伴っている場合は、複雑部分発作といいます。単純部分発作には、図1に示す様々な身体症状(他覚症状)がありますが、本人にしかわからない症状(自覚症状)も多くあります。どのような症状になるのかは、てんかん焦点部が大脳のどの部分にあるか(局在)によって決まってきます。従って、後に紹介する分類では、この部分発作を、局在関連性てんかん、と呼んでいます。また、単純部分発作は複雑部分発作に移行する場合もあります。

図1. 部分発作

一方、全般発作は、体全体の発作で、両側性に生じる身体症状を指します。意識消失を伴います。発作のタイプは、意識を短時間失うような発作から、体中の筋肉が痙攣、収縮するようなものまで多岐に渡ります(図2)。神経細胞の異常興奮は大脳の両側半球へ広がっています。しかし、なぜ、大脳全体に異常興奮が発生するのかということ(発生機序)については、まだよくわかっていません。

図2. 全般発作
(2)てんかんとてんかん症候群分類(1989, ILAE)

てんかんを引き起こす原因は一つではありません。脳に何らかの損傷(器質的変化)がある場合と、ない場合があります。そして、それらの原因がわかっていないてんかんを特発性てんかん原因不明なてんかん)といい、原因となる脳の器質的な病変があるてんかんを症候性てんかん脳に何らかの病変が存在しているてんかん、例えば脳腫瘍や脳形成異常、変性疾患など)といいます。

また、上で説明した分類での、部分発作を症状とするてんかんを、局在関連性てんかんと呼び、症状が全般発作であるてんかんを、全般性てんかんと呼んでいます。
それぞれに、特発性のものと症候性のものがあり、ある程度の臨床的な特徴があります(図3)。

図3. てんかんの分類
(3)焦点部の場所による分類

焦点局在てんかん、つまり大脳の一部に焦点があるてんかんの場合、焦点部が大脳のどこにあるのか、という観点から、前頭葉てんかん側頭葉てんかん後頭葉てんかん、などと呼ぶことがあります。これらの焦点部には、脳腫瘍、脳形成異常、脳炎後遺症、海馬硬化などといった器質的な病変が存在している症候性のことが多く、しばしば脳外科治療の対象となる場合があります。

(4)原因遺伝子が解明されつつあるてんかん症候群

特発性てんかんの中には、最近、遺伝子異常が解明されている疾病が多くなってきています。それらによる分類法はまだできていませんが、中枢神経系に発現するいくつかのチャンネル(細胞の出入り口)の遺伝子異常が存在している疾病が注目されてきています。それらには、カリウムチャンネルナトリウムチャンネルカルシウムチャンネルの異常が言われていて、多くは乳幼児期の予後良好なてんかんです。

また、チャンネルの他、アセチルコリンレセプターGABAレセプターというような神経情報の伝達に関する物質の遺伝子異常も見つけられています。

症候性てんかんの中でも、原因となる病気の発症に関与する遺伝子異常も多く発見されてきています。多くは、代謝異常性の疾患で異常な蓄積物(脂質など)が脳や全身の臓器に溜まるものですが、変性疾患という原因不明だった一部の疾患で、原因遺伝子が解明されているものもあります。

今後、遺伝子異常の研究的な観点から、てんかんの原因分類がなされることも予想されます。