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海馬硬化

海馬硬化とは?

難治性てんかんの脳外科治療によって焦点切除される器質的な病変の種類と内訳は、専門的に治療を行っている病院の治療方針によっても若干左右されますが、おおよそ、下の円グラフのようになります。そのうち、海馬硬化と言われる萎縮性病変が五分の一くらいを占めています。海馬は側頭葉の一部であり、記憶に関連する重要な脳部位ですが、てんかんとも密接に関連しており、側頭葉てんかんと呼ばれます。また、側頭葉てんかんの一部では、海馬が萎縮していない症例もあり(非萎縮性海馬)、比較的早期の病変が顕微鏡で観察されます。  その他、難治性てんかんの脳外科適応のある症例の焦点部では、脳形成異常、脳腫瘍、血管病変、炎症・瘢痕病変などが観察される場合があります。これらについて、順を追って説明してゆきます。

上の円グラフを表にすると下のようになります。このうち、非特異的グリオーシスというものは、グリア細胞であるアストロサイトが増生している状態で、それだけで何か特定の病変を意味するわけでないものを指しています。また*印で書いてある鉄沈着とは、てんかんの焦点切除部にしばしば鉄の微細顆粒が観察されることを示しており、このような鉄の暴露によって脳内の環境がどのように変化するのか(神経可塑性)、今後の研究で明らかにしてゆく予定です。

側頭葉てんかんでは海馬、扁桃体、その他の側頭葉部分を切除しますが、海馬では海馬硬化(hippocampal sclerosis)という萎縮性病変を形成し、また、海馬硬化という用語の他、アンモン角硬化(Ammon's horn sclerosis)とも呼ばれることがあります。障害されやすいのは、CA1+CA3+CA4であり、神経細胞の脱落、グリオーシス、それに伴う錐体細胞層の萎縮を認めます。CA4領域だけが硬化性病変を形成するパターンもあります。一方、CA2は比較的保たれる傾向にあり、海馬支脚もほぼ完全な正常像を保ちます。

海馬硬化病変に加えて、側頭葉外側部分の皮質に何らかの病変がある場合を狭義にdual pathologyと呼び、それに加えてさらに、側頭葉以外にも何らかの病変がある場合を広義にdual pathologyとされます。Dual pathologyとは海馬の他にもうひとつ病変がある、という意味です。また、先にも述べましたが、てんかんの原因となる脳波所見が海馬領域に見られたにも関わらず、海馬硬化という萎縮性病変にならない海馬もあります。

海馬硬化についてはまだ解明されていないことが多いですが、今後の検討課題としては、海馬の歯状回顆粒細胞における脱落と新生の関係の問題と、外傷が背景にあると思われる症例で海馬硬化が引き起こされるメカニズムと、出血由来の鉄イオンの沈着の関わりの問題が挙げられます。

下の表は上記の説明を列記した表になります。

海馬硬化はどう見えるのか?

以下の4つの写真は定型的な海馬硬化の所見です。CA1領域が高度に萎縮しているのが明瞭です。また、顆粒細胞層(granule cell layer)もあわえて脱落・消失してゆきます。

下の図は、海馬硬化の比較的初期における萎縮部位を赤く塗っています。

下の図は、さらに進行した海馬硬化における萎縮部位を赤く塗っています(DG;歯状回 dentate gyrus)。

認知症等の“海馬硬化”とは違う

海馬硬化hippocampal sclerosisという診断名は古くから側頭葉てんかんの海馬病変について使われてきましたが、最近、一部の認知症の病理診断名として、“誤って“使われていますので、特に注意が必要です。一部の認知症で診断される“海馬硬化hippocampal sclerosis”は海馬領域にリン酸化タウが蓄積する、いわゆるタウオパチーの病理フェノタイプであり、海馬支脚も含めて全体的な海馬萎縮を来します。一方、“本家本元”のてんかんの海馬硬化hippocampal sclerosisは、前述したような病理像を示し、かつ、かなり進行するまで海馬支脚は障害されず、また、顆粒細胞層が乖離するdispersionという現象を伴うことが特徴です。このような点を踏まえれば、間違って混同することがないと思われます。

海馬の歯状回顆粒細胞層は、普通は2、3層の神経細胞層ですが、側頭葉てんかんの海馬では顆粒細胞が10層くらいにまで幅が広く乖離したり、中層が脱落して一見2層化したように見えることがあり、それぞれ、dispersion、duplicationと呼んでいます。この特徴は顆粒細胞の軸索の発芽現象と関連があると言われ、またヒトの脳で生後も神経していることがわかっている顆粒細胞の新生現象となんらか関係があると考えられています。

このような顆粒細胞層の乖離現象は、非萎縮性・てんかん原性海馬にも生じていることが観察され、細胞計測学的に、顆粒細胞の脱落にともない分子層が厚くなることが確認されています。このことは、いわゆるdormant basket cell hypothesisと呼ばれるてんかん発症メカニズム仮説がヒトの海馬にも当てはまるのではないかということを示唆するものです。

最後に、特殊な海馬硬化の病理表現型として終板硬化 endofolium sclerosisというものに触れておく必要があります。これは、前述したCA1から萎縮が進行するようなパタンではなく、最初からCA4(別名、終板と呼ばれる)に限局した硬化性病変が生じるものです。定型的な海馬硬化と発生機序が異なることが予想されますが、詳細は明らかになっていません。

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